デザイン思考を応用した時間活用の改善記録
時間の使い方という個人的な課題へのデザイン思考アプローチ
私は普段、企画職として働いています。業務の中でデザイン思考の考え方やプロセスに触れる機会がありましたが、それはあくまで仕事上の顧客やユーザーに対するものでした。しかし、ある時ふと、「このデザイン思考の考え方は、自分自身の個人的な悩みや目標にも応用できるのではないか」と考えるようになりました。
特に私が長年課題として感じていたのは、「時間の使い方」でした。毎日忙しく働いているにも関わらず、どうも効率が悪い、集中力が続かない、タスクに追われている感覚から抜け出せない、といった悩みを抱えていました。単に「時間がない」のではなく、限られた時間を有効に使えていない、そこに問題の本質があるのではないか、そう考えた時、デザイン思考のフレームワークを自己分析と課題解決に適用してみようと思い立ったのです。
課題の深掘り:忙しさの裏にある真の課題を探る(共感・問題定義フェーズ)
デザイン思考の最初のステップは「共感」です。他者への共感はもちろんですが、ここでは「自分自身の状態への共感」、つまり徹底的な内省を行いました。具体的には、1週間程度、厳密に自分の行動記録をつけることから始めました。これは、ビジネスで言うところのカスタマージャーニーマップを、自分自身の一日の行動に当てはめてみる試みです。
何時に何を始めたか、どのくらいの時間それをしたか、その時の感情や感じたこと(集中できたか、疲れたか、気が散ったかなど)を細かく記録しました。また、家族や信頼できる同僚に「私の働き方や時間の使い方について、何か気づく点はあるか」と尋ねてみることもしました。他者から見た自分の姿を知ることは、自分だけでは気づけない盲点に光を当てる上で有効だと考えたからです。
この記録と他者からのフィードバックを分析した結果、いくつかのパターンが見えてきました。例えば、午前中の特定の時間は比較的集中できること、メールやチャットの通知が入ると必ず作業が中断されること、複数のタスクを同時にこなそうとして、結局どれも中途半端になることが多いこと、そして、事前に計画を立てる習慣がないため、場当たり的にタスクをこなしていることなどです。
これらの分析から、「単に時間が足りない」のではなく、「集中を阻害する要因が多く存在し、かつタスクの優先順位付けと計画が曖昧であること」が、私の時間管理における真の課題であると定義しました。これは、デザイン思考でいうところの「問題定義」にあたります。表面的な現象(忙しさ)ではなく、その根本原因を探るプロセスでした。
解決策の模索:多様なアプローチを考え、絞り込む(アイデア創出フェーズ)
真の課題が定義できたところで、次は解決策のアイデアを可能な限り多く出す「アイデア創出」フェーズです。ビジネスにおけるブレインストーミングのように、一人で時間管理に関する書籍や記事を読んだり、成功している人の事例を調べたりしながら、思いつく限りのアイデアを書き出してみました。
具体的には、ポモドーロテクニック、タイムブロッキング、GTD(Getting Things Done)、特定の時間帯の通知オフ、ToDoリストツールの導入、朝一番に最重要タスクを行う、会議時間の短縮提案、隙間時間の活用法など、様々なアプローチをリストアップしました。この段階では、実現可能性はあまり考慮せず、自由な発想を心がけました。
次に、これらのアイデアを絞り込むプロセスに入ります。すべてのアイデアを試すことは現実的ではありません。自身のライフスタイルや業務内容(企画職は突発的な対応も多い)、そして「集中力向上」と「計画性向上」という定義した課題にどれが最も効果がありそうか、という基準で評価しました。
その結果、比較的すぐに始められそうで、かつ集中力向上に直接的に繋がりそうな「ポモドーロテクニック」と「特定の時間帯の通知オフ」を試してみることにしました。これらは、私の定義した課題に対して、小さな行動で検証できる有効なアイデアだと判断したのです。
具体的な行動と試行錯誤:計画を立て、実行し、反応を見る(プロトタイプ作成・テストフェーズ)
絞り込んだアイデアを具体的な行動計画に落とし込み、実行する「プロトタイプ作成」と「テスト」のフェーズです。まずは「ポモドーロテクニック」を1週間試すプロトタイプを開始しました。タイマーを使って25分集中、5分休憩を繰り返すシンプルな手法です。
開始当初は新鮮さもあり、集中力が続いている感覚がありました。しかし、数日経つと、メールやチャットの通知、同僚からの急な声かけなどによって、25分のサイクルが頻繁に中断されるという問題に直面しました。特に企画職の業務は、他部署との連携や突発的な問い合わせが多く、完全に中断をなくすのは困難だと感じました。これは、プロトタイプを試すことで初めて明らかになった課題でした。
そこで次のプロトタイプとして、「午前中の最も集中したい時間帯(例えば9時から11時)は、PCとスマートフォンのメール・チャット通知を完全にオフにする」という施策を試みました。これは以前の分析で午前中に集中しやすい時間帯があること、通知が中断要因であることを踏まえたものです。
このプロトタイプは、以前よりも格段に集中力を維持できる点で効果がありました。しかし、今度は「緊急の連絡が来た場合に気づくのが遅れるのではないか」という懸念が生まれました。完全に孤立してしまうことへの不安です。
そこでさらにプロトタイプを改善しました。午前中の通知オフは維持しつつ、チーム内で「この時間は集中タイムとして通知をオフにすること」「緊急の場合は、電話で連絡してもらうか、〇〇さん(特定の担当者)に声をかけてもらうこと」といった簡易的なルールを共有しました。これは、単なる個人の行動変更だけでなく、周囲との関係性も考慮した調整です。
結果と学び:実践から得られた洞察とデザイン思考の価値
一連のプロトタイプとテストを通じて、私の時間管理は以前よりも確実に改善されました。特に、午前中の集中時間帯を確保し、その間のデジタル通知を遮断したことは、作業効率と集中力の向上に大きく貢献しました。完全にタスクに追われる感覚がなくなったわけではありませんが、少なくとも重要なタスクに集中して取り組める時間が増えました。
このプロセスを通じて得られた最も大きな学びは、デザイン思考のフレームワークが、個人的な、漠然とした悩みに対しても有効であるということです。「なんとなく忙しい」という表面的な感覚を、「集中を阻害する具体的な要因」や「計画性の欠如」といった真の課題として定義できたこと。そして、その課題に対して様々な解決策を考え、小さな行動(プロトタイプ)として具体的に実行し、その結果を見て改善するというサイクルを回せたこと。これらが、単なる精神論ではない、具体的な変化をもたらしました。
また、うまくいかなかったプロトタイプや、試行錯誤の中で見えてきた予期せぬ課題(通知オフによるコミュニケーションの遅れ懸念など)も重要な学びでした。これらのフィードバックを取り入れて次の行動に繋げるというプロセス自体が、デザイン思考の本質であると感じています。万人に共通する時間管理術があるわけではなく、自分の状況に合わせて柔軟に試し、カスタマイズしていくことの重要性を身をもって知りました。
もちろん、個人の課題解決には外部要因も影響します。職場の文化や、関係者の協力なくしては難しい側面もあります。デザイン思考が万能薬ではないことも理解しましたが、少なくとも自分自身の内面と行動に焦点を当て、建設的に課題に取り組む上で、非常に強力なツールとなり得ることを実感しました。
結論:個人的な課題解決におけるデザイン思考の可能性
時間管理という、多くの人が抱える身近な課題に対してデザイン思考を適用した私の経験は、このフレームワークがビジネスシーンだけでなく、個人的な悩みや目標達成にも有効であることを示唆しています。
もしあなたが、キャリア、学習、健康、人間関係など、何か個人的な課題に対して漠然とした悩みを感じているのであれば、一度デザイン思考の考え方で向き合ってみることをお勧めします。共感を通じて課題を深掘りし、問題の本質を定義する。多様なアイデアを自由に発想し、小さなプロトタイプとして実行してみる。そして、その結果から学びを得て、次の行動に繋げる。
この一連のプロセスは、あなたの悩みを客観的に捉え、具体的な行動へと変換し、そして継続的な改善を促す力を持っています。完璧な解決策がすぐに見つからなくても、試行錯誤の過程そのものが、あなたの自己理解を深め、前に進むための貴重な一歩となるでしょう。ぜひ、あなた自身の「マイデザイン思考ノート」を始めてみてはいかがでしょうか。