デザイン思考で自身の働きがいを探求し、モチベーションを向上させた記録
デザイン思考を個人の働きがい探求に応用する
仕事は私たちの生活の大きな部分を占めます。しかし、日々の業務の中で「働きがい」や「仕事へのモチベーション」が低下してしまうことは少なくありません。私自身も、長年同じような業務に携わる中で、かつて感じていたような熱意が薄れてきていると感じることがありました。この漠然とした課題に対し、仕事で培ってきたデザイン思考のフレームワークを個人的な探求に応用してみることを思い立ちました。
デザイン思考は、本来顧客やユーザーの課題を深く理解し、創造的な解決策を見出すためのアプローチです。これを自分自身の内面に向け、自身の働きがいという「ユーザー課題」を解決しようと試みた記録をここに記します。
課題の深掘り:私自身の「働きがい」を共感・定義する
デザイン思考の最初のステップは「共感」です。ここでは、他者ではなく自分自身に共感することを試みました。具体的には、自身の過去の経験を内省することから始めました。
過去の仕事において、どのような瞬間に最も「楽しい」「やりがいがある」「充実している」と感じたのか、逆にどのような瞬間に「辛い」「つまらない」「無意味だ」と感じたのかを、日記やメモを読み返したり、改めて書き出したりして詳細に振り返りました。単に出来事を列挙するだけでなく、その時の感情や思考、周囲の状況、関わっていた人々などを掘り下げました。
この過程で、特定の業務内容だけでなく、チームとの協業、貢献の実感、自身の成長、新しい知識の習得、あるいは単なる物理的な環境など、多様な要素が働きがいに影響していることに気づきました。特に、「自身の専門性が活かせた時」「未知の領域に挑戦できた時」「他者から感謝された時」にポジティブな感情が湧く傾向があることが明らかになりました。
次に「問題定義」です。内省で得られた気づきをもとに、現在の「働きがいが低下している」という状態が、具体的にどのような要因によって引き起こされているのか、解決すべき真の課題は何なのかを明確にしました。当初は「仕事がマンネリ化している」という漠然とした認識でしたが、深掘りによって「自身の成長や新しい挑戦の機会が不足していること」「日々の業務の中で専門性を十分に発揮できている実感が薄れていること」などが具体的な課題として浮かび上がりました。
自分自身をユーザーに見立て、「自身の成長機会の不足」や「専門性発揮の実感の薄さ」といった課題の根本原因は何か、それが満たされないことでどのような不満や障壁が生じているのかを構造的に整理しました。この際、簡単なマインドマップを作成し、要素間の関連性を可視化することも試みました。
解決策の模索:アイデア創出フェーズの実践
明確になった課題、「自身の成長機会の不足」と「専門性発揮の実感の薄さ」に対し、次は「アイデア創出」フェーズです。どのような行動を取ればこれらの課題を解決できる可能性があるか、制約にとらわれずに可能な限り多様なアイデアをリストアップしました。
例えば、「自身の成長機会の不足」に対しては: - 業務時間外で新しいスキルを学ぶ(オンライン講座、読書) - 社内の異動・兼務制度を利用する - 現在の業務範囲を広げる提案をする - 社外の勉強会やコミュニティに参加する - 現在の仕事と直接関係ない分野に挑戦する
「専門性発揮の実感の薄さ」に対しては: - 自身の専門知識を活かせる新しい業務を提案する - チームメンバーに積極的に知見を共有する機会を作る - 社外のイベントで発表する - 自身のスキルを活かした副業やボランティアを検討する
これらのアイデアをリストアップした後、現実的な制約(時間、コスト、会社のルールなど)や、自身の興味・価値観との整合性を考慮して絞り込みを行いました。この段階では、すぐに実行できるものから、少しハードルの高いものまで、いくつか候補を残すようにしました。特に重視したのは、「小さく始められるか」という点です。
具体的な行動計画と試行:プロトタイプとテスト
絞り込んだアイデアの中から、最も手軽に始められそうなものを「プロトタイプ」として実行に移す計画を立てました。私が選んだのは、以下の2つです。
- 「新しいスキル学習時間の確保」: 週に3時間、業務に関連するものの普段触れていない分野(例:データ分析ツール、特定のプログラミング言語)のオンライン講座を受講する時間を確保する。
- 「社内での知見共有機会の創出」: 週に一度、チーム内で自身が得意とする分野に関する簡単な情報共有会(5分程度のミニプレゼン)を実施することを提案し、実行する。
これらのプロトタイプを実行する中で、「テスト」のフェーズに入りました。計画通りに時間が確保できたか、実際に学習や共有会の準備・実施はスムーズか、それによって自身の感情や周囲の反応にどのような変化があったかを記録しました。
新しいスキル学習は、当初計画通りに時間を確保するのが難しい日もありましたが、早朝や通勤時間を活用するなど方法を調整しました。学習自体は新しい発見が多く、知的好奇心が刺激される感覚がありました。
社内での情報共有会は、同僚からの予想以上の関心と感謝の言葉を得られ、自身の専門性が他者に貢献できているという実感を得ることができました。これは「専門性発揮の実感の薄さ」という課題に対し、直接的に効果があることを示唆しました。
一方で、これらの活動がすぐに直接的な業務成果に結びつくわけではないため、その点での評価や自身の焦りといった別の感情も生じました。プロトタイプは必ずしもうまくいくだけではなく、新たな課題や予期せぬ感情を引き出すこともあるのだと学びました。
結果と学び:デザイン思考の個人的応用から見えたこと
約1ヶ月間のプロトタイプ実行期間を経て、当初の課題「働きがいが低下している」という状況に変化が見られました。完全に課題が解決したわけではありませんが、新しいスキルを学ぶことや、自身の知見を共有することで、自身の成長や他者への貢献といったポジティブな側面に意識が向きやすくなりました。特に、社内での情報共有会は、自身の専門性が役立っているという具体的なフィードバックを得られる点で、大きな効果がありました。
この実践を通じて、デザイン思考を個人的な課題に応用することの有効性を実感しました。漠然とした不満や課題を、内省を通じて具体化し、構造的に捉え直す「共感」と「問題定義」のプロセスは、問題の本質を見抜く上で非常に有効でした。また、多様な解決策を検討し、まずは小さく試してみる「アイデア創出」と「プロトタイプ・テスト」のアプローチは、行動へのハードルを下げ、現実的なフィードバックを得ながら改善を進めることを可能にしました。
一方で、仕事のような明確な顧客や市場がない個人的な課題においては、効果測定が主観的になりがちである点、そして自身のモチベーション維持自体がテスト対象になりうる点が、ビジネスにおけるデザイン思考とは異なる難しさだと感じました。しかし、この「自分自身をユーザーとして観察し、仮説を立て、小さく試す」というサイクルは、キャリアや人間関係、趣味など、他の個人的な課題にも広く応用できる可能性を秘めていると確信しました。
結論:自身の働きがいをデザインする
私自身の働きがいを探求し、モチベーション向上を目指したデザイン思考の応用は、自身の内面と丁寧に向き合い、具体的な行動を通じて小さな変化を生み出す有効な手段でした。このプロセスは、自身の仕事に対する向き合い方を見つめ直し、受け身ではなく能動的に自身のキャリアや日々の充実感をデザインしていくことの重要性を示唆しています。
もし、あなたが仕事やその他個人的な領域で漠然とした課題や目標を抱えているのであれば、デザイン思考のフレームワークを自分自身に適用してみる価値はあるでしょう。まずは「なぜそう感じるのか」を深く掘り下げ、解決すべき本質的な課題を定義することから始めてみてはいかがでしょうか。そして、思いついたアイデアを恐れずに小さく試してみる。その試行錯誤の過程から、きっと新たな気づきや前向きな変化が生まれるはずです。