マイデザイン思考ノート

デザイン思考で自身のスキル資産を棚卸し、未来のキャリアをデザインした記録

Tags: デザイン思考, キャリアデザイン, スキル棚卸し, 自己分析, 目標設定

自身のスキル資産を見つめ直す必要性を感じていた日々

キャリアの節目を迎えるにあたり、自身の市場価値や今後どのような方向へ進むべきかについて、漠然とした不安を抱えていました。これまでの職務経験や身につけてきたスキルについて、体系的に整理できていないと感じていたのです。自分が「何ができる人間なのか」「どんな経験が将来に繋がるのか」が不明確なままでは、具体的な目標設定も、そこへ向かうための行動計画も立てられない。そのような状況を打破するために、何か新しいアプローチを取り入れたいと考え、自身の個人的な課題にデザイン思考を適用してみようと思い立ちました。

課題の本質を探る:内省と他者からの視点(共感・問題定義)

まず最初に取り組んだのは、「自身のスキル・経験の棚卸しがなぜ進まないのか」「それをどう活かしたいのか」という課題の本質を深く探ることでした。デザイン思考の「共感」フェーズに倣い、自分自身への内省と、信頼できる関係者からのフィードバック収集を行いました。

内省では、これまでのキャリアパスを振り返り、それぞれの期間でどのような役割を担い、どのような業務に携わったのかを詳細に書き出しました。特に意識したのは、単なる業務内容の羅列ではなく、「そこで何を学び、どのような能力が身についたのか」「何にやりがいを感じ、何に苦労したのか」といった、感情や思考、具体的な行動に焦点を当てることでした。これは、自分自身の「経験ジャーニーマップ」を作成するようなイメージです。

次に、「共感」の対象を他者へ広げました。親しい同僚や友人、家族に協力を仰ぎ、「私がどんな時に活き活きしているように見えるか」「私の強みや弱みは何だと思うか」「私の仕事ぶりについて、具体的に印象に残っていることはあるか」といった質問を投げかけました。自分一人では気づけない、客観的な視点や評価を得ることが目的です。驚くほど、自分では当たり前だと思っていたことが他者からは強みと認識されていたり、逆に自分では得意だと思っていたことについて、異なるフィードバックが得られたりしました。

これらの内省と他者からのフィードバックを統合し、情報カードのような形で要素ごとに整理しました。その結果見えてきたのは、「自身の経験やスキルは多様である一方で、それらが断片的に捉えられており、全体像として把握できていない」という課題です。これにより、「自身の持つスキル資産を明確に可視化し、今後のキャリア目標と紐づけるロードマップを描けていない」という、より具体的で解決すべき「問題定義」に到達することができました。

解決策の模索:アイデア発想と絞り込み(アイデア創出)

明確になった問題定義に対し、次は解決策のアイデアを創出するフェーズです。「どうすれば自身のスキル資産を効果的に可視化できるか」「そのスキルをどのように未来に繋げられるか」という問いに対して、ブレインストーミングの手法を用いて多様な発想を試みました。

具体的には、まず質にこだわらず、思いつく限りのアイデアを書き出しました。「過去のプロジェクトを全てリスト化する」「スキルごとにレベル分けをする」「キャリアの異なる知人に話を聞く」「オンライン学習で新しい分野に挑戦する」「副業でスキルを試す」など、様々な視点からアイデアを出しました。

次に、これらのアイデアを「実現可能性」「自身の興味・価値観との合致度」「得られるであろう効果」といった基準で評価し、絞り込みを行いました。例えば、全てのスキルを網羅的に棚卸しするアイデアは網羅性は高いものの膨大な時間がかかりそうである、特定のスキルの深掘りは興味があるがすぐにキャリアに繋がるか不透明である、といった点を考慮しました。このプロセスを通じて、「自身の主要なスキル領域を特定し、それを過去の具体的な経験と結びつけて記述する」「関心のある未来のキャリアパスに関連するスキルについて情報収集や体験を試みる」という二つの方向性が有望であると判断しました。

具体的な一歩を踏み出す:プロトタイプとテスト

絞り込んだアイデアに基づき、具体的な行動計画、すなわち「プロトタイプ」を作成し、実行に移しました。最初のプロトタイプは、「自身の主要スキルとその裏付けとなる経験をまとめたドラフトを作成する」ことでした。これは、履歴書や職務経歴書とは異なり、自身の学びや貢献、そこから得られた示唆などを自由に記述する形式を取りました。

このドラフト作成の過程で、いくつかの予期せぬ発見がありました。例えば、ある業務を通じて身についたスキルが、当初想定していなかった別の分野で応用できる可能性に気づいたり、逆に特定のスキルについては、もっと体系的な学習が必要であると認識したりしました。また、自身の言葉で経験を記述することで、過去の取り組みに対する自信や、今後のキャリアに対する具体的なイメージが湧いてくることもありました。

並行して、もう一つのプロトタイプとして「関心のある未来のキャリアパスについて、実際にその分野で活躍している人に話を聞く」という行動を実行しました。これは、単なる情報収集に留まらず、その分野で求められるスキルや経験、仕事のリアルを「共感」の視点から理解するための試みです。数名の方にお話を伺う中で、自身の持つスキルがどのように活かせるか、あるいはどのようなスキルが決定的に不足しているかについて、貴重な示唆を得ることができました。当初考えていたキャリアパスが、自身の価値観や現在のスキルセットと大きく乖離していることに気づき、方向性を微調整する必要があると感じたケースもありました。

これらのプロトタイプを実行し、その結果を評価する「テスト」を通じて、自身のスキル資産に対する理解は深まり、キャリアの方向性も徐々に明確になっていきました。全ての試みが計画通りに進んだわけではありませんし、中には期待したほどの成果が得られなかった行動もありました。しかし、それらの試行錯誤自体が、貴重な学びと次の行動へのヒントを与えてくれたのです。

実践から得られた結果と学び

デザイン思考を自身のスキル棚卸しとキャリアデザインに適用した結果、最も大きな成果は、自身の持つスキルや経験に対する「解像度」が格段に高まったことだと感じています。漠然とした不安は、「このスキルは強みだが、この分野は補強が必要だ」「過去のこの経験は、将来のこの目標に繋がる可能性がある」といった具体的な課題認識と希望に変わりました。

デザイン思考のプロセスを通じて、感情的になりがちな自己分析を構造化し、客観的な視点を取り入れ、具体的な行動に繋げることができたのは非常に有効でした。特に、自分自身と向き合う「共感」、課題を絞り込む「問題定義」、そして具体的な行動計画として「プロトタイプ」を作成し「テスト」する一連の流れが、思考を整理し、前に進むための強力なフレームワークとなりました。

一方で、個人的な課題にデザイン思考を適用することの限界や難しさも感じました。例えば、スキルの定義や評価は客観的な基準がなく、どうしても主観が入り込みやすくなります。また、他者からのフィードバックも、相手との関係性や解釈によってその受け止め方が変わる可能性があります。そして、立てた行動計画を継続して実行していくためには、強い意志と自己管理能力が求められます。デザイン思考はあくまでフレームワークであり、それを推進するのは自分自身の内的な動機や工夫であると改めて認識しました。

まとめ

自身のスキル資産を棚卸し、未来のキャリアをデザインするという個人的な課題にデザイン思考を適用した今回の試みは、多くの学びと気づきをもたらしてくれました。自身の内面と向き合い、他者の視点を取り入れ、具体的な行動を通じて検証するというプロセスは、単なる思考に留まらず、変化を促す力があると感じています。

もしあなたが、自身のキャリアや個人的な目標について漠然とした悩みや立ち止まっている感覚をお持ちであれば、デザイン思考のプロセスを応用してみることを検討されてはいかがでしょうか。最初から全てのフェーズを完璧に行う必要はありません。まずは自分自身への「共感」、つまり内省から始めてみたり、信頼できる誰かに話を聞いてもらうことから始めてみたりするのも良いかもしれません。デザイン思考は、複雑で非構造的な個人的な課題に対しても、思考を整理し、具体的な一歩を踏み出すための有効な手がかりを与えてくれる可能性を秘めていると感じています。