マイデザイン思考ノート

デザイン思考で自身の価値観を明確にし、人生の選択に活かす私の実践記録

Tags: デザイン思考, 価値観, 自己分析, 内省, キャリアデザイン, 意思決定

はじめに:人生の羅針盤としての価値観を探求する

日々の生活や仕事において、私たちは無数の選択に直面しています。キャリアの方向性、時間の使い方、人間関係の構築など、その選択の一つ一つが私たちの人生を形作っていきます。しかし、時に「これで本当に良いのだろうか」という迷いや、「何となく満たされない」といった感覚に苛まれることがあります。これはもしかすると、自身の深い部分にある「価値観」との間にズレが生じているのかもしれません。

私自身、30代後半になり、これまでのキャリアや生き方を振り返る中で、表面的な目標達成だけでは得られない、より本質的な充足感を求めるようになりました。しかし、漠然とした感覚はあっても、自分が何を大切にしているのか、どのような状態を理想とするのかが明確になっていないことに気づきました。この「自分の価値観が曖昧である」という状態が、意思決定の迷いや、日々の行動の軸のブレに繋がっているのではないか、と考えたのです。

そこで私は、「自分の悩みや目標にデザイン思考を適用した実践例と記録」というこのブログのコンセプトに従い、デザイン思考のフレームワークを自身の価値観探求に応用してみることを思い立ちました。ビジネスやプロダクト開発で用いられるデザイン思考は、ユーザーへの深い共感を出発点とし、課題を定義し、多様なアイデアを生み出し、プロトタイプによる試行錯誤を通じて解を見出していくプロセスです。この「対象を深く理解する」「本質的な課題を見つける」「試しながら学ぶ」というアプローチは、自分自身の内面を探求し、曖昧な価値観を明確にするプロセスにも有効ではないかと考えました。この記事では、私がデザイン思考の各フェーズをどのように自身の価値観探求に適用し、どのような試行錯誤を経て、そこから何を得たのか、その実践の記録を共有いたします。

課題の深掘り:自分自身への「共感」と「問題定義」

デザイン思考の最初のフェーズは「共感」です。通常はユーザーのニーズやインサイトを深く理解するために行いますが、今回はその対象を「自分自身」としました。自分自身の感情、思考、経験を客観的に観察し、深く理解しようと試みたのです。

具体的には、以下のような方法を取り入れました。

  1. 感情のジャーナリング: 日々の出来事に対して、自分がどのように感じたかを詳細に記録しました。特に、心が動いた瞬間(喜び、達成感、落胆、不満など)に焦点を当て、「なぜそう感じたのか」を掘り下げました。どのような状況で活力を感じ、どのような状況でエネルギーを奪われるのか、といったパターンが見えてきました。
  2. 過去の経験の棚卸し: これまでの人生で、特に充実感や幸福を感じた時期、逆に困難を感じた時期を振り返りました。それぞれの時期に共通する要素や、その経験から何を学んだのかを書き出しました。楽しかった経験だけでなく、苦労した経験の中にも、自分が無意識のうちに大切にしていたこと(例: 困難を乗り越える過程そのもの、他者からの励まし、新しい知識の習得など)が隠されていることに気づきました。
  3. 「ピーク・エクスペリエンス」の特定: 強烈な喜びや達成感を伴った経験(ピーク・エクスペリエンス)をいくつか特定し、その時の状況、自分の行動、感情を詳細に分析しました。その経験の中核にあったものは何か、それは自分にとってなぜ重要だったのかを深掘りしました。
  4. 信頼できる他者との対話: 家族や親しい友人、メンターなど、私をよく理解していると感じる複数人との対話の機会を持ちました。彼らから見た私の強み、弱み、価値観、そして彼らが私のどんな点に価値を感じるのか、といった率直なフィードバックを求めました。自分一人では気づけなかった側面や、客観的な視点を得ることができました。

これらの「共感」フェーズを通じて集めた内省やフィードバックの情報を整理し、デザイン思考の「問題定義」フェーズに移りました。ここで目指したのは、「私の曖昧な価値観が、人生の選択においてどのような具体的な課題を引き起こしているのか」を明確にすることです。

集まった情報から、繰り返し現れるテーマや、特に感情が強く動いたポイントを抽出しました。例えば、「新しい知識を学ぶこと自体に喜びを感じる」「困難な状況でも粘り強く取り組むことに達成感がある」「他者からの感謝や貢献を実感できる時に満たされる」といったパターンです。これらのパターンを基に、「私はどのような時に最も自分らしくいられるのか」「私が最も大切にしているのは何か」といった問いを立て、それに対する暫定的な答えを言語化していきました。

この段階では、パーソナルペルソナのようなイメージで、「価値観が明確になった理想の自分」がどのような行動をとり、どのような状態にあるのかを記述してみたり、パーソナルジャーニーマップのように、価値観が満たされている時とそうでない時の自分の感情や行動の変化を可視化してみたりする試みも行いました。

最終的に、私の内省と対話から見えてきた価値観の核となる要素をいくつか特定し、それらが不明確であることによって生じている課題を「自分の深い部分にある欲求や信念(価値観)が曖昧なため、外部の評価や一時的な感情に流されやすく、長期的な視点での満足度が高い選択を継続的に行うことが困難である」と定義しました。この定義は、単に「何となく満たされない」という漠然とした感覚から、「価値観の不明確さが選択の質に影響している」という、より具体的で行動可能な課題へと焦点を絞ることを可能にしました。

解決策の模索:「アイデア創出」の実践

明確になった課題、「価値観の不明確さが選択の質に影響している」に対し、デザイン思考の「アイデア創出」フェーズとして、どのようにすれば自身の価値観を日々の選択に活かせるか、多様な解決策を考えました。

ここでは、ブレインストーミングの個人版のような形で、考えられるあらゆるアイデアを制限なく書き出しました。重要なのは、この段階ではアイデアの質や実現可能性を評価しないことです。

このように、非常に多様なアイデアが出揃いました。次にこれらのアイデアを、以下の観点から評価し、絞り込みを行いました。

  1. 価値観へのフィット感: そのアイデアは、特定された私の価値観(例: 成長、貢献、安定、自由など)とどれだけ強く結びついているか。
  2. 実現可能性: 現在の私の状況やリソース(時間、お金、スキルなど)を考慮した際に、現実的に実行可能か。
  3. 影響度: そのアイデアを実行することで、人生の選択の質や日々の満足度にどれだけ大きな変化をもたらしそうか。
  4. 自身の興味・関心: 純粋にそのアイデアに取り組んでみたいと思えるか。

これらの基準を用いてアイデアを評価した結果、いくつかの有望なアイデアが浮かび上がりました。例えば、「特定した価値観を明確に言語化し、いつでも参照できるようにする」「週に一度、価値観に沿った行動ができたか振り返る時間を持つ」「重要な意思決定の前に、選択肢が自分の価値観とどのように整合するかを書き出して比較する」といったものです。これらのアイデアは、実現可能性が高く、かつ価値観を意識する習慣を作る上で大きな影響を与えうると判断しました。

具体的な行動計画と試行:「プロトタイプ作成」と「テスト」

絞り込んだアイデアを、具体的な行動計画(プロトタイプ)として落とし込み、実際に試してみるフェーズです。ここでは、完璧を目指すのではなく、「最小限の労力で、仮説(このアイデアは価値観を活かした選択に役立つか)を検証できる形」にすることを目指しました。

私がまずプロトタイプとして実行したのは、「私の価値観リストを壁に貼り、毎日目にする」ことと、「週末に15分、その週の行動を価値観と照らし合わせて振り返る」ことでした。

これらの初期のプロトタイピングから得られた学びを基に、さらに改良を加えました。価値観リストは単に貼るだけでなく、それぞれの価値観が具体的にどのような行動や状態を指すのか、小さな説明を加えました。週次振り返りは時間を少し延長し、振り返りのフォーマット(例: 価値観ごとにその週の関連行動を書き出す欄を設ける)を工夫しました。また、より重要な意思決定(例: 新しいプロジェクトへの参加判断、まとまった時間の使い方など)を行う際には、意図的に価値観リストを参照し、各選択肢がどの価値観をより満たす可能性が高いかを比較検討するプロセスを取り入れ始めました。

結果と学び:デザイン思考による価値観探求の有効性

約3ヶ月間にわたるデザイン思考を活用した価値観探求と実践を通じて、いくつかの重要な結果と学びを得ることができました。

まず、自分自身の価値観が以前よりもはるかに明確になりました。「何となく大切」だったものが、具体的な言葉やイメージを伴って認識できるようになったのです。これにより、日々の小さな選択から人生の大きな決断まで、「これは自分の価値観に合っているか」という軸で考えることができるようになり、意思決定のスピードが上がり、迷いが減りました。

また、自分の価値観に沿った行動を選択する機会が増えたことで、日々の生活における満足度や充実感が向上したと感じています。たとえそれが一時的に困難を伴う選択であったとしても、自分の深い部分が納得しているという感覚があるため、後悔する可能性が低くなりました。逆に、価値観に反する行動をとった際には、以前よりも早くそのズレに気づき、軌道修正を意識できるようになりました。

デザイン思考のプロセスを個人的な課題に適用することの有効性を強く実感しました。特に、「共感」フェーズでの徹底的な内省と他者からのフィードバックは、自分一人では気づけなかった盲点や、表面的な願望のさらに奥にある本質的な欲求を引き出す上で非常に効果的でした。「問題定義」フェーズで課題を言語化することで、次に何に取り組むべきかが明確になりました。「アイデア創出」で多様な可能性を考え、「プロトタイプ・テスト」で小さく試して学ぶプロセスは、頭の中で考えるだけでは得られない具体的な気づきと改善の機会を与えてくれました。

一方で、個人的な内面に関わる課題にデザイン思考を適用する上での限界や難しさも感じました。ビジネスにおけるユーザーや顧客のように、明確なフィードバックが得やすい対象ではないため、自分自身の内面の声や変化を正確に捉え、評価することが常に容易ではありませんでした。また、価値観は固定されたものではなく、人生経験や学習を通じて変化しうるものであるため、定期的な見直しや再探求が必要であると感じています。一度探求すれば終わり、という性質のものではないという学びがありました。

結論:デザイン思考は、自分自身の「デザイン」にも応用できる

この実践を通じて、デザイン思考は単に製品やサービスを開発するためのフレームワークではなく、私たち自身の生き方やキャリア、そして内面を「デザイン」するためのパワフルなツールとして応用できることを改めて認識いたしました。

自分の価値観を探求し、それを日々の選択や行動に活かすことは、より意図的で、自分にとって意味のある人生を歩むことに繋がります。そして、そのプロセスにおいてデザイン思考の各フェーズ、すなわち自分自身への深い「共感」、本質的な「問題定義」、多様な可能性を探る「アイデア創出」、そして小さく試して学ぶ「プロトタイプ作成」と「テスト」は、非常に有効な道標となります。

もしあなたが、キャリアや人生の選択に迷いを感じていたり、何となく満たされない感覚を持っていたりするのであれば、それは自身の価値観が不明確であることから来ているのかもしれません。そして、その価値観を探求し、明確にするプロセスに、デザイン思考を応用してみてはいかがでしょうか。まずは小さな一歩として、自分自身への内省の時間を設けることから始めてみるのも良いでしょう。この実践記録が、あなたの「マイデザイン思考ノート」に新たな視点をもたらす一助となれば幸いです。