デザイン思考を応用した、私自身の創造性向上のための探求と実践
個人的な創造性向上にデザイン思考を応用した背景
仕事柄、新しいアイデアを生み出すことや、既存の状況に対して異なる視点を提供することは重要なスキルの一つです。企画職として働く中で、常に新しい発想を求められる一方で、自身の思考がルーチン化し、行き詰まりを感じる場面が増えてきました。これは仕事に限らず、プライベートでの新しい趣味のアイデアや、日々の生活における工夫といった面でも同様の課題を抱えていました。
これまでは、関連書籍を読んだり、研修に参加したりすることで、一時的に創造性や発想力を刺激することはできましたが、根本的な思考プロセスを改善し、継続的に新しいアイデアを生み出す習慣を身につけるまでには至っていませんでした。
そこで、業務で馴染みのあるデザイン思考のアプローチを、この個人的な課題に応用してみることを思い立ちました。デザイン思考がユーザー中心のアプローチで問題解決や新しい価値創造を目指すフレームワークであるならば、その「ユーザー」を自分自身に置き換えることで、私自身の思考や行動パターンを深く理解し、創造性という課題を解決するための糸口が見つかるのではないかと考えたのです。
課題の深掘り:自分自身への共感と問題定義
デザイン思考の最初のフェーズは「共感」です。通常は他者への共感を通じてニーズを理解しますが、今回は自分自身がユーザーです。私の「創造性が枯渇している」という感覚はどのような状況で、どのような感情を伴うのかを深く掘り下げました。
具体的には、以下のような内省を行いました。
- いつ、どのような時に「発想力がない」と感じるのか: 特定のタスクに取り組む際か、リラックスしている時か。時間帯や場所による違いは。
- アイデアが出ない時の思考プロセス: どのような思考の罠にはまっているのか。過去の成功体験に縛られているのか、新しい情報に触れていないのか。
- アイデアが出やすい時はどのような状況か: どのようなインプットがあり、どのような心の状態である時に新しい発想が生まれるのか。
- 創造性に対する自身の考え方: 創造性とは特別な才能なのか、それとも訓練によって磨けるものなのか。自身はそれをどのように捉えているのか。
これらの内省を深めるために、「思考のジャーニーマップ」とでも呼ぶべきものを試作しました。ある課題に取り組む際の自身の思考の段階(課題理解→情報収集→発想→まとめ)を可視化し、それぞれの段階でどのような感情(焦り、停滞感、閃き)を持ち、どのような行動(ネット検索、メモ、他の作業への逃避)を取っているかを記録しました。これにより、アイデアが出ない「停滞期」に陥りやすい特定のパターンや、そこで取るべきでない行動が見えてきました。
また、信頼できる友人や同僚に「私がアイデアに詰まっているように見える時はどんな時か」「私の思考の癖で気になる点は何か」といった問いかけを行い、客観的な視点も参考にしました。
これらの内感と外からのフィードバックを統合した結果、「創造性がない」という漠然とした課題は、以下のような具体的な問題として定義されました。
- 特定の思考パターンからの脱却が苦手であること。
- 新しい情報や異なる視点を取り入れるための体系的なインプット習慣が不足していること。
- アイデアを記録・整理し、結びつける仕組みがないこと。
真に解決すべき課題は「新しい発想を生み出すための体系的な思考プロセスと習慣の構築」であると明確になりました。
解決策の模索:アイデア創出の実践
問題定義を踏まえ、次に解決策のアイデアを考えました。自分自身がユーザーであるため、ブレインストーミングを一人で行う形になりましたが、意図的に多様な視点を取り入れる工夫を凝らしました。
- 他の分野の発想法を応用する: デザイン思考以外の創造技法(TRIZ、KJ法など)の簡易版を試す。
- 環境を変える: 普段仕事をしない場所で考え事をする。散歩しながら考える。
- インプットの方法を変える: 普段読まないジャンルの本を読む、美術館に行く、知らない分野のイベントに参加する。
- 思考ツールを使う: マインドマップ、メモアプリ、ジャーナリングなど。
- 意図的に非日常を取り入れる: 新しい道を通る、行ったことのない店に入る。
- 他の人とアイデアを出し合う機会を作る: 勉強会や交流会に参加する。
これらのアイデアをリストアップした後、「実行の容易さ」「効果の期待度」「自身の性格やライフスタイルへの適合性」という3つの軸で評価しました。例えば、「毎日30分、全く関係ない分野の情報を調べる」は実行が比較的容易で効果も期待できそうですが、「毎週、新しいコミュニティに参加する」は実行のハードルが高く、継続が難しいと判断しました。
その結果、以下のようなアイデアを優先的に試すことにしました。
- 毎日、意図的に普段接しない情報(例: 美術、歴史、科学など)に触れる時間を設ける。
- アイデアや気づきを即座に記録するための「デジタルアイデアノート」を常に持ち歩く習慣をつける。
- 週に一度、記録したアイデアを見返し、異なるもの同士を結びつける時間を設ける。
- 課題に取り組む際、最低3つの異なる視点から考える練習をする(例: 子供ならどう考えるか、歴史上の人物ならどうするか、全く違う業界ならどうするか)。
具体的な行動計画と試行:プロトタイプとテスト
絞り込んだアイデアに基づき、具体的な行動計画、すなわちプロトタイプを作成しました。これらのプロトタイプは、いきなり完璧な習慣を目指すのではなく、まずは短期間で試せるものとして設計しました。
- プロトタイプ1: 異分野インプット習慣
- 内容: 平日朝、通勤電車の中で15分間、普段読まないジャンルのニュースサイトやブログを読む。
- 期間: 2週間。
- 測定: 読んで面白かった記事の数を記録。仕事や日常生活で何か新しい視点が得られたかをメモ。
- プロトタイプ2: デジタルアイデアノート
- 内容: スマートフォンのメモアプリを活用し、気づいたこと、思いついたことをその場で記録する。キーワードでも短文でも良い。
- 期間: 2週間。
- 測定: 1日にメモを取った回数。記録したメモの内容を後で見返した際の価値。
- プロトタイプ3: 異なる視点思考練習
- 内容: 仕事で簡単な課題に取り組む際、意識的に「もし〇〇だったらどうするか」という問いを立てて考える。
- 期間: 1週間。
- 測定: 異なる視点から考えられた課題の数。その際に生まれたアイデアの質。
これらのプロトタイプを実際に試してみました。
プロトタイプ1の異分野インプットは、最初は慣れませんでしたが、普段触れない世界に触れることで、思わぬところで仕事のアイデアにつながるヒントが見つかることがありました。ただし、毎日続けるのは少し負担に感じました。
プロトタイプ2のデジタルアイデアノートは、スマートフォンは常に手元にあるため習慣化しやすく、移動中や会議中など、いつでも気軽にメモが取れる点が非常に有効でした。後で見返すと、忘れていたような断片的なアイデアが蓄積されており、それ自体が発想の種となることを実感しました。
プロトタイプ3の異なる視点思考練習は、意図的に思考の枠を外す訓練として有効でした。最初は難しく感じましたが、「役割を演じるように考える」ことで、普段は思いつかないようなアプローチが見つかることがありました。ただし、時間や精神的な余裕がないと実践が難しい場面もありました。
これらの試行を通じて、プロトタイプ2(デジタルアイデアノート)が最も手軽で効果を実感しやすかったため、これを継続的に発展させていくことにしました。プロトタイプ1と3は、毎日ではなく週に数回、あるいは特定の課題に取り組む際に意識的に取り入れる形に調整することにしました。
結果と学び
今回のデザイン思考を応用した創造性向上の試みは、完全に「発想の達人」になれたわけではありませんが、自分自身の思考プロセスに対する理解を深め、創造性を高めるための具体的な習慣をいくつか身につける上で非常に有効でした。
最も大きな学びは、創造性という抽象的な課題も、デザイン思考のフレームワークを通すことで、具体的な行動と改善のサイクルに乗せられるということです。「共感」フェーズで自分自身の思考パターンを客観視し、「問題定義」で解決すべき課題を明確にしたことで、漠然とした「発想力がない」という悩みが、「思考の固定化を打破し、体系的なインプットとアイデア管理の習慣を身につける」という、取り組むべき課題へと翻訳されました。
「アイデア創出」フェーズでは、自分に合った発想方法やインプット方法を模索し、「プロトタイプ」「テスト」フェーズでそれらを検証することで、効果的かつ継続可能なアプローチを見つけることができました。特に、デジタルアイデアノートの習慣化は、断片的な情報やアイデアを結びつけ、新しい発想を生み出す基盤となっています。
もちろん、すべてが計画通りに進んだわけではありません。異分野インプットの習慣化は、当初の計画通りには定着しませんでしたが、その代わりに特定のテーマに絞って深く掘り下げるインプットを試すなど、柔軟な軌道修正を行いました。また、創造性は単なる手法だけでなく、心身の状態にも影響されるため、十分な休息や適度な運動といった基本的なセルフケアも重要であるという気づきもありました。デザイン思考は問題解決のツールですが、それを適用する「自分自身」の状態を整えることも、創造性においては不可欠であることを実感しました。
デザイン思考を個人的な課題に適用する上での有効性は、客観的なフレームワークを使って自分自身を分析し、具体的なアクションプランに落とし込める点にあると感じます。一方で、他者への共感とは異なり、自分自身への共感は主観が入りやすいため、意図的に異なる視点(例: 友人からのフィードバック、過去のデータ)を取り入れる工夫が必要であることも学びました。
結論
私自身の創造性向上への試みを通じて、デザイン思考はビジネスにおける問題解決だけでなく、個人的な悩みや目標の達成においても非常に強力なツールとなり得ることを改めて実感しました。
重要なのは、「共感」を通じて課題の本質を深く理解し、「問題定義」で解決すべき問いを明確にすることです。その上で、「アイデア創出」「プロトタイプ」「テスト」のサイクルを回し、試行錯誤を恐れずに具体的な行動を起こすことです。失敗や期待外れの結果も、自分自身への理解を深め、より良い解決策へとつながる貴重な学びとなります。
もしあなたが、キャリア、習慣、スキル、人間関係など、何らかの個人的な課題を抱えており、どうすれば解決できるか悩んでいるのであれば、一度自分自身をユーザーとして捉え、デザイン思考のレンズを通してその課題を分解してみることをお勧めします。このプロセスは、あなたの悩みに対する新しい視点と、具体的な行動への一歩を与えてくれるかもしれません。