マイデザイン思考ノート

デザイン思考で取り組んだ、複数の目標を同時に進めるための優先順位付けと進捗管理の記録

Tags: デザイン思考, 目標設定, タスク管理, 優先順位付け, 自己改善

複数の個人的な目標を同時に追求する難しさ

私はこれまで、仕事におけるプロジェクト推進でデザイン思考のアプローチを活用してまいりました。顧客の隠れたニーズを探り、複雑な課題を分解し、多様な解決策を考えるプロセスは、多くの示唆を与えてくれます。一方で、自身の個人的な課題、例えばキャリアの学習、新しい趣味の習得、健康習慣の確立といった複数の目標を同時に追求することに関しては、常に難しさを感じておりました。どれも大切だと分かってはいるものの、日々の忙しさに流されたり、緊急度の高いタスクに追われたりする中で、どうしても優先順位があいまいになり、どれも中途半端な状態に陥りがちでした。

この個人的な「複数の目標の管理」という複雑な課題に対し、デザイン思考のフレームワークを適用することで、何か突破口が見いだせるのではないかと考え、実践を試みることにいたしました。これは、この「マイデザイン思考ノート」のコンセプトである「自分の悩みや目標にデザイン思考を適用した実践例と記録」の新たな一歩となります。

課題の本質を探る(共感・問題定義フェーズの実践)

まず、私が複数の目標をうまく管理できないのはなぜなのか、その本質的な課題を探ることから始めました。デザイン思考の共感フェーズにあたるこの段階では、自分自身への内省を深めました。具体的には、目標達成が進んでいない時にどのような感情を抱くか、どのような状況で他のタスクに流されてしまうか、それぞれの目標に対する自分の本当の意欲はどれくらいか、などを静かに掘り下げていきました。

単なる「時間が足りない」という表層的な理由だけでなく、さらに深いレベルで何が起きているのかを理解しようと試みました。例えば、ある目標に対するモチベーションが低下していることに気づいたり、他の目標との間で無意識に優先順位をつけてしまっている自分を発見したりしました。また、これらの目標が私の人生全体においてどのような意味を持つのか、それぞれの目標が互いにどのように影響し合うのか、といった関連性についても思考を巡らせました。

この内省の結果に基づき、問題定義フェーズとして解決すべき真の課題を明確にしました。私の場合は、「複数の目標に対して、それぞれの重要度や現在の状況に応じた適切な優先順位をつけ、かつ、その優先順位に基づいた実行可能な計画を立て、継続的に進捗を管理する仕組みが欠如していること」が本質的な課題であると定義しました。これは単に「頑張る」ということではなく、仕組みそのものをデザインする必要があることを示唆していました。この定義に至る過程では、自身の目標をリストアップし、それぞれの関連性を図示してみるといった、カスタマージャーニーマップの個人版のような視覚化も試みました。

解決策のアイデアを模索する(アイデア創出フェーズの実践)

定義した課題「複数の目標間の適切な優先順位付けと、実行可能な計画に基づく継続的な進捗管理の仕組み構築」に対し、次は多様な解決策のアイデアを発想するフェーズに移りました。ここでは、ブレインストーミングの個人版のような形で、可能な限り多くの選択肢を自由に考え出しました。

具体的なアイデアとしては、以下のようなものが挙げられます。 * 各目標に費やす時間を固定する(時間ブロック)。 * 特定の曜日や時間を各目標のための「専用時間」とする。 * すべての目標を一覧できるボードやシートを作成し、進捗を可視化する。 * タスク管理ツールや習慣トラッカーアプリを活用する。 * 目標達成に向けたタスクを極限まで小さく分解する(小さな習慣化)。 * 週に一度、全目標の進捗確認と翌週の計画を立てる時間を設ける。 * 日々の終わりに、その日の目標関連の活動を振り返る習慣をつける。 * 達成度合いに応じて自分にご褒美を与えるルールを作る。 * 友人や家族に進捗を報告し、外部からのコミットメントを取り入れる。 * 目標そのものを定期的に見直し、必要であれば修正・中止する。

これらのアイデアの中から、私のライフスタイルや性格、現在のリソース(時間、体力、集中力など)を考慮して、最も実現可能性が高く、かつ効果が見込めそうなものを絞り込みました。単に目新しいツールを使うだけでなく、私自身にとって無理なく継続できる「習慣」や「仕組み」に焦点を当てることにしました。その結果、「全目標の可視化」「定期的な(週次)の進捗確認と計画立案」「タスクの細分化と日々のタスクリストへの組み込み」を組み合わせたアプローチをプロトタイプとして試すことにいたしました。

具体的な行動計画と試行(プロトタイプ作成・テストフェーズの実践)

絞り込んだアイデアに基づき、具体的な行動計画、すなわちプロトタイプを設計し、実際に試行を開始しました。プロトタイプは以下の要素で構成しました。

  1. 目標リストと構成要素の明確化: すべての個人的な目標(例:特定の技術資格取得、外国語学習、ブログ記事執筆、ジョギング習慣化など)をリストアップし、それぞれの目標がなぜ自分にとって重要なのか、どのような状態になれば達成と言えるのか、そして達成のために必要な主要なステップは何かを具体的に記述しました。
  2. 週次レビュー&計画時間の設定: 毎週日曜日の午前中に30分間、「目標レビュー&次週計画」のための固定時間を確保しました。この時間で、前週の進捗を確認し、うまくいったこと、いかなかったことを振り返り、翌週に各目標に対して具体的に何を、いつ行うかを計画しました。
  3. 進捗可視化ツールの導入: シンプルなスプレッドシートを用いて、各目標の主要ステップと進捗状況(%またはステータス)を一覧できるようにしました。これにより、全体の進捗状況を俯瞰できるようにしました。
  4. 日々のタスクへの組み込み: 週次計画で立てた内容を、普段使用しているタスク管理ツール(私はデジタルツールを使用)に具体的な行動として落とし込み、日々のタスクリストに組み込みました。

このプロトタイプを1ヶ月間試行いたしました。最初の1週間は、計画通りに進めることができ、各目標に対する意識も高まったように感じました。しかし、2週目に入ると、仕事の突発的なタスクにより計画が崩れる日が出てきました。特に、当初見積もっていたよりも時間がかかるタスクがあったり、体調が優れない日があったりすると、設定していた目標関連のタスクを後回しにしてしまう傾向が見られました。

この状況に対し、私は「計画通りにいかないこと自体もテストの結果である」と捉え、プロトタイプの調整を試みました。週次レビューの時間に、計画通りに進まなかった原因を具体的に分析し、翌週の計画に反映させました。例えば、タスクの時間見積もりをより慎重に行ったり、予備の時間ブロックを設けたり、その週はあえて目標の数を絞り込んだりといった調整です。また、スプレッドシートでの進捗可視化は全体像の把握には役立ちましたが、日々のモチベーション維持には直接繋がりにくいと感じたため、より日々の行動を追跡できる習慣トラッカーアプリも並行して試してみることにいたしました。

このような試行錯誤を重ねることで、徐々に自分にとって無理のないペースやアプローチが見えてきました。当初の完璧な計画を目指す姿勢から、状況に応じて柔軟に調整することの重要性を学びました。

実践を通じて得られた結果と学び

1ヶ月間の試行を通じて、全ての目標が劇的に達成されたわけではありませんが、いくつかの重要な変化がありました。まず、複数の目標が「頭の中のぼんやりとした願望」から、「具体的なステップを持つ、進捗管理可能なプロジェクト」として明確に認識できるようになりました。週次レビューの習慣を持つことで、各目標に対する自分の向き合い方を定期的に見直す機会が得られ、優先順位の変動にも対応しやすくなりました。また、進捗を可視化するツールは、たとえ進みが遅くとも、「全く進んでいないわけではない」という安心感や、「あとこれだけ進めば次のステップに進める」という見通しを与えてくれ、モチベーションの維持に一定の効果があることを実感いたしました。

デザイン思考を個人的な課題解決に適用することの有効性については、複雑で感情的な要素も含まれる個人の悩みや目標に対しても、 1. 課題を分解し、本質を見極める 2. 多様な解決策を構造的に考える 3. アイデアを具体的な行動(プロトタイプ)に移し、小さく試す 4. 結果を冷静に観察し、学びを得て改善する というプロセスが非常に有効であることを改めて確認できました。特に、うまくいかなかった際にもそれを失敗ではなく「プロトタイプのテスト結果」として捉え、改善に繋げられる点は、個人的な課題に取り組む上での精神的なハードルを下げてくれると感じました。

一方で、限界も感じられました。デザイン思考はあくまでアプローチやフレームワークであり、最終的な行動は自分自身の意思と努力に依存します。特に、モチベーションの低下や予期せぬ出来事への対応など、個人的な要素が大きく影響する部分では、フレームワークだけでは解決できない壁があることも認識いたしました。

結論

今回のデザイン思考を用いた複数の個人的な目標管理への挑戦は、完璧な「正解」にたどり着いたわけではありませんが、複雑な課題に対して体系的にアプローチし、試行錯誤を通じて自分にとって最適な方法を模索することの価値を示してくれました。表面的な問題に囚われず、内省を通じて課題の本質を探り、多様な解決策を検討し、そして何よりも「小さく始めて試す」という行動の重要性を改めて認識いたしました。

もし、あなたがキャリアやプライベートで複数の目標をお持ちであり、それらをどう進めていくか迷っているのであれば、デザイン思考のアプローチを自身の状況に合わせて応用してみることをお勧めいたします。まずは、あなたが抱える「複数の目標管理」に関する本当の悩みが何なのか、内省や関係者との対話を通じて深掘りしてみてください。そして、解決策のアイデアを自由に発想し、一つまたは複数を組み合わせた自分なりの「プロトタイプ(行動計画)」を設計し、まずは短期間、実際に試してみてください。

重要なのは、最初から完璧な計画や仕組みを目指すのではなく、試行を通じて学び、改善を重ねていくことです。このプロセス自体が、あなたの自己理解を深め、より効果的な行動へと繋がっていくはずです。あなたの個人的な課題解決における、デザイン思考の新たな応用例として、この記事が何らかの示唆となれば幸いです。