デザイン思考を応用した、私自身の長期目標設定プロセスと試行錯誤
はじめに:漠然とした「こうなりたい」を形にする難しさ
日々の仕事では、チームやプロジェクトの目標を設定し、達成に向けた計画を立てることが求められます。しかし、これが自分自身の長期的な目標となると、途端に難しさを感じることがありました。漠然と「もっと成長したい」「将来的にこういう状態になっていたい」といった願望はあるものの、それを具体的な目標として設定し、行動に移すための第一歩がなかなか踏み出せない。頭の中だけで考えていても、霧が晴れるような感覚はありませんでした。
このような状況を打破するために、仕事で馴染みのあるデザイン思考のフレームワークを自身の個人的な課題に適用してみようと考えました。複雑で捉えどころのない問題を解きほぐし、具体的なアクションへと繋げるデザイン思考のアプローチは、まさにこの「長期目標設定」という個人的な課題にも有効なのではないか、そう考えたのが始まりです。この記事では、デザイン思考の各フェーズを自身の目標設定にどのように適用し、どのような試行錯誤を経て、どのような学びを得たのか、その実践の記録を共有します。
課題の深掘り:内なる声に「共感」し、本質を「定義」する
デザイン思考の最初のステップは「共感(Empathize)」です。通常はユーザーや顧客への共感ですが、個人的な課題においては「自分自身」への共感から始めます。私はまず、自身の内なる声に耳を傾ける時間を意図的に設けました。どのような時に喜びや達成感を感じるのか、何に不満や不安を感じるのか、どのような状態が理想なのかを、感情も含めてノートに書き出しました。過去の経験を振り返るために、簡易的なライフラインチャートを作成し、自身の感情の浮き沈みとその原因となった出来事を視覚化する試みも行いました。
次に「問題定義(Define)」のフェーズです。共感のプロセスで得られた自身の感情や願望の断片を整理し、解決すべき本質的な課題として明確に言語化します。当初は「もっとスキルを上げたい」といった漠然としたものでしたが、「どのようなスキルを、何のために、いつまでに、どのレベルまで上げたいのか」といった問いを繰り返し、内省を深めました。この過程では、友人や家族との会話も有効でした。彼らが私をどう見ているか、どのような強みや弱みを感じているかといった他者の視点を取り入れることで、自分一人では気づけなかった側面に光が当たり、課題の輪郭がより鮮明になりました。最終的に、私の課題は「自身の専門性を拡張し、変化の速い環境に対応できる柔軟なキャリア基盤を2年以内に構築すること」というように、具体的な言葉で定義することができました。
解決策の模索:「アイデア」を広げ、自分にフィットするものを選ぶ
明確になった課題に対し、次は「アイデア創出(Ideate)」のフェーズです。解決策となりうるあらゆる可能性を、実現可能性を一時的に無視して発想します。一人ブレインストーミングとして、定義した課題解決に繋がりそうなキーワードを起点に、思いつく限りの行動や状態を書き出していきました。「新しい技術を学ぶ」「副業を始める」「社外のコミュニティに参加する」「資格を取得する」「ブログで発信する」「人脈を広げる」「〇〇関連の書籍を100冊読む」など、多様なアイデアが出揃いました。
これらのアイデアを、単に有効かどうかだけでなく、「自分自身の興味関心と合致するか」「継続できそうか」「現在のリソース(時間、お金)で可能か」といった個人的な基準で評価し、絞り込んでいきました。ここでは、仕事で使うようなアイデア評価マトリクスを応用し、縦軸に「課題解決への貢献度」、横軸に「自分へのフィット感(モチベーション・実現可能性)」といったラベルを設定し、アイデアをプロットしてみる方法を取りました。その結果、「新しい技術を学ぶ(ただし、現職で活かせるものに絞る)」や「社外コミュニティへの参加(特定の分野に限定)」、「インプットした知識をアウトプットする習慣をつける(ブログなど)」といったアイデアが具体的な候補として残りました。
具体的な行動と試行:「プロトタイプ」を作り、「テスト」を繰り返す
絞り込んだアイデアを机上の空論にせず、具体的な行動計画、すなわち「プロトタイプ」として形にします。私は、候補となったアイデアの中から、最も小さく始められるものを最初のプロトタイプとして選択しました。「新しい技術を学ぶ」というアイデアに対し、「まずは毎日15分、特定のオンライン学習プラットフォームで講座を受講する」という具体的な行動計画を設定しました。これは、時間的・精神的なハードルを低く設定し、すぐに実行に移せるようにするための工夫です。
そして、このプロトタイプを実際に「テスト(Test)」しました。1週間続けてみて、計画通りに実行できたか、どのような点が難しかったか、続けるモチベーションは維持できたかなどを記録しました。初日はうまくいきましたが、数日後には仕事が忙しくなり、15分を確保できない日が出てきました。また、漠然と講座を受けるだけでは、学んだことが定着しにくいという課題にも気づきました。
このテスト結果からフィードバックを得て、プロトタイプを修正します。計画を「毎日15分」から「週に合計1時間、時間を決めて集中的に学ぶ」に変更し、さらに「学んだ内容を週末に簡単なメモとしてまとめる」というアウトプットの要素を追加しました。この修正されたプロトタイプを再びテストするというサイクルを繰り返しました。テストを通じて、自分にとって最も効果的で継続しやすい学習方法や時間の使い方を徐々に発見していきました。これは、最初から完璧な計画を立てようとするのではなく、実行と改善を繰り返すデザイン思考ならではのアプローチの有効性を実感した瞬間でした。
実践を通じて得られた結果と学び
デザイン思考を自身の長期目標設定に適用した結果、以前の漠然とした状態から脱却し、具体的な行動を着実に進めることができるようになりました。目標達成度合いはまだ道半ばですが、少なくとも目指すべき方向性が明確になり、日々の行動がその目標に繋がっているという感覚を得られています。
このプロセスを通じて、デザイン思考を個人的な課題に応用することの有効性を強く感じました。特に、複雑で曖昧な課題を共感と問題定義のフェーズで分解し、解決策をアイデア創出で多角的に検討し、プロトタイプとテストで小さく始めて検証・改善を繰り返すサイクルは、個人的な成長や変化を促す上で非常に強力なフレームワークとなり得ます。
一方で、個人的な課題においては、外部環境の変化だけでなく、自分自身の感情やモチベーションの波も大きく影響することを実感しました。テストのフェーズで計画通りに進まない場合、それを客観的に分析し、改善に繋げることが重要ですが、時には落ち込んだり、やる気を失ったりすることもあります。デザイン思考の客観的なプロセスに加え、自己肯定や柔軟な思考を持つことの重要性も改めて認識しました。デザイン思考は強力なツールですが、それを使う自分自身の内面との向き合い方も同時に必要となる、これが個人的な課題への応用における一つの学びです。
結論:個人的な課題解決にもデザイン思考という羅針盤を
私自身の長期目標設定におけるデザイン思考の応用実践は、現在も続いています。しかし、このアプローチを取り入れたことで、以前のような立ち止まってしまう状態から、一歩ずつでも前に進める具体的な行動へと繋げることができています。
デザイン思考は、ビジネスの場だけでなく、私たちの日常生活や個人的な成長においても、強力な羅針盤となり得ます。もしあなたが、私と同じように個人的な悩みや目標に対して、どこから手をつければ良いか分からない、あるいは考えが堂々巡りしてしまうと感じているのであれば、一度デザイン思考のフレームワークを適用してみてはいかがでしょうか。自分自身に「共感」し、解決すべき「問題」を定義し、多様な「アイデア」を発想し、小さく「プロトタイプ」を作って「テスト」してみる。このプロセスが、あなたの抱える課題を解きほぐし、具体的な行動への糸口を与えてくれるかもしれません。まずは、あなたが最も解決したいと思う、あるいは最も達成したいと願う個人的なテーマを選び、デザイン思考の最初のステップを踏み出してみてください。