デザイン思考で情報収集・整理習慣を最適化する試み
情報過多時代における個人的な課題とデザイン思考への期待
現代は、インターネットやSNSを通じて日々膨大な情報が流れ込んでくる時代です。仕事においても個人的な活動においても、必要な情報を選び取り、整理し、活用することがますます難しくなっていると感じていました。特に、企画職という立場上、常に新しい情報をインプットし、それをアイデアや提案に繋げる必要があります。しかし、ブックマークは溜まる一方、保存したファイルはどこに行ったか分からなくなり、結局いつも同じ情報源ばかり見てしまう。そんな状態に陥っていました。
この「情報収集・整理がうまくいかない」という状況は、単に効率が悪いだけでなく、情報に追われる感覚や、せっかく得た知識が活かされないことへの焦りにも繋がっていました。これは、仕事における課題であると同時に、私の個人的なウェルビーイングにも関わる大きな悩みでした。
これまで業務でデザイン思考のアプローチに触れる機会があり、ユーザー視点に立って本質的な課題を発見し、解決策を iteratively(繰り返し)生み出していくそのプロセスに感銘を受けていました。ふと、「このデザイン思考を、私自身の情報収集・整理という個人的な課題に適用してみたらどうなるだろうか」と考えたのが、今回の試みを始めたきっかけです。単なるツールやテクニックの導入ではなく、自身の情報との向き合い方そのものをデザインし直す。そこに可能性を感じました。
課題の深掘り:私の情報収集・整理における本質的な悩みは何か(共感・問題定義)
デザイン思考の最初のステップは「共感」です。通常はユーザーへのインタビューなどを通じて行いますが、今回は自分自身の個人的な課題であるため、まずは徹底的な「内省」から始めました。
- 現状の情報収集・整理プロセスの洗い出し: 普段どのように情報を集め、どのように保存し、どのように活用(あるいは活用できていないか)を時系列で書き出してみました。通勤中にニュースアプリを見る、SNSで流れてきた記事をBookmarkする、気になった書籍をとりあえずKindleに入れる、仕事関連の資料をデスクトップに一旦置くなど、無意識に行っている行動を可視化しました。
- 感情の記録: そのプロセスでどんな感情を抱くかを書き留めました。情報収集中は楽しいが、後で見返そうと思うと億劫になる。Bookmarkの数が多すぎて絶望する。必要な情報がすぐに見つからずイライラする。といったネガティブな感情が多いことに気づきました。
- 身近な人との対話: 友人や同僚数名に、「どうやって情報集めてる?」「溜まった情報どうしてる?」といった軽い質問を投げかけてみました。本格的なインタビューではありませんが、彼らの情報との向き合い方や共通の悩みに触れることができました。「後で見ようと思って結局見ない」「ツールは色々試したけど定着しない」といった声は、私だけが抱える課題ではないことを示唆していました。
これらの内省や対話を経て、私の情報収集・整理における本質的な課題は、単に「情報が多すぎる」ことではなく、「集めた情報を自分にとって意味のある形で『消化』し、『活用』に繋げる仕組みがない」ことだと再定義しました。必要な時に必要な情報を取り出せない、情報を知識や行動に転換できていない状態こそが、私の真の悩みであると明確になりました。この課題定義は、「消化と活用を促進する仕組みをデザインする」という、次のステップに向けた明確な指針となりました。
解決策の模索:消化と活用を促進するアイデアを生み出す(アイデア創出)
定義した課題「消化と活用を促進する仕組みがない」に対し、多様なアイデアを発想する「アイデア創出」フェーズに入りました。ここでは、「こんなことできたらいいな」という理想論から、「これならすぐに試せそうだ」という現実的なものまで、幅広く考えました。
- 発想法の応用: 一人ブレインストーミングのように、思いつく限りのアイデアを付箋に書き出しました。「すべてのBookmarkをフォルダ分けする」「情報収集専用の時間を設ける」「週に一度、集めた情報を見返す日を作る」「要約ツールを使う」「手書きノートにまとめる」「特定のテーマに絞って情報収集する」「RSSリーダーを導入する」「特定のSNSの情報だけを追う」など、様々な切り口からアイデアを出しました。
- アイデアのグルーピングと具体化: 出てきたアイデアを、「ツール」「習慣」「絞り込み」「アウトプット」といったカテゴリでグルーピングし、それぞれのアイデアをもう少し具体的に掘り下げてみました。例えば「情報収集専用の時間」なら、「毎朝15分だけニュースを読む」「寝る前にその日集めた情報を見返す」といった具体的な行動に落とし込みます。
- 評価と絞り込み: 出てきた多くのアイデアの中から、自身の課題解決に繋がりそうか、そして自分自身が継続できそうか(実現可能性、フィット感、持続可能性)という観点で評価を行いました。すべてのアイデアを実行することはできないため、「まずはこれらを試してみよう」という形でいくつかのアイデアを絞り込みました。この際、完璧な解決策を最初から求めず、「小さく試せるか」を重視しました。例えば、全てのBookmarkを整理するのは大変でも、「新しいBookmarkは必ず1週間以内に見返す」というルールなら試しやすいと考えました。
最終的に、以下の3つのアイデアを組み合わせたプロトタイプで試してみることにしました。 1. 情報収集時間を限定する(例:朝の通勤時間だけ) 2. Bookmarkは「一時置き場」とし、週に一度必ず見返して不要なら削除、必要なら専用のノートツールに要約・保存する 3. 特定のテーマに関する情報は、特定の情報源からのみ得るようにする
具体的な行動計画と試行:小さく始めて改善する(プロトタイプ・テスト)
絞り込んだアイデアを、具体的な行動計画である「プロトタイプ」として実行に移し、その結果を「テスト」するフェーズです。
- 最初のプロトタイプ実行: 上記の3つのアイデアを実行可能な計画に落とし込みました。「毎朝8:00-8:15はニュースアプリとRSSリーダーだけを見る」「毎週日曜日の午前中に、その週にBookmarkした項目をすべて確認し、Evernoteに要約するか捨てる」「AIに関する情報は特定のニュースレターと学術系サイトだけを見る」といった具体的なルールを設定しました。
- 試行と記録: 設定したルールに従って、まずは2週間試行してみました。そして、うまくいったこと、いかなかったこと、感じたことを日々簡単に記録しました。
- 「情報収集時間を限定することで、だらだらとネットを見てしまう時間が減った」
- 「Bookmarkを見返す習慣は良いが、要約に時間がかかりすぎて負担になる」
- 「特定の情報源に絞るのは楽だが、視野が狭まる懸念もある」
- フィードバックに基づく改善(Iteration): 2週間の試行結果を踏まえ、プロトタイプを改善しました。
- 要約の負担を減らすため、完璧な要約ではなく「なぜBookmarkしたか」の一言メモにする。
- 視野狭窄を防ぐため、週に一度はランダムな情報源も見る時間を作る。
- Bookmarkの見直しを日々の習慣に組み込む(例: 昼休みに5件だけ見る)。
このように、一度決めたプロトタイプに固執せず、テストからのフィードバックを受けて柔軟に改善していくプロセスを繰り返しました。最初の計画通りには進まないことの方が多かったのですが、「これはダメだった」「こっちの方が良さそうだ」という気づき自体が重要な学びとなりました。特に、「Bookmarkを要約する」という行為が自分には向いていない、という発見は、試してみなければ分からなかったことです。代わりに「一言メモを残す」というライトな方法に変えたことで、継続しやすくなりました。
結果と学び:デザイン思考がもたらした変化と気づき
数ヶ月にわたるこの試みを通じて、私の情報収集・整理習慣は少しずつ変化しました。劇的にすべての情報が整理されたわけではありませんが、以前のような「情報に追われる」感覚は薄れ、必要な情報へのアクセスがスムーズになったと感じています。
特に大きかったのは、以下の点です。
- 本質的な課題の明確化: ツールやテクニックに飛びつく前に、まず「なぜ情報収集・整理がうまくいかないのか」「何が私にとっての『情報が整理された状態』なのか」を深く考えることができた点です。デザイン思考の共感・問題定義フェーズが、私の抱える課題の根幹を捉えるのに非常に有効でした。
- 小さく試して改善する姿勢: 最初から完璧なシステムを作ろうとするのではなく、アイデアを具体的な行動(プロトタイプ)に落とし込み、小さく試してフィードバックを得ながら改善していくというアプローチは、個人的な習慣作りにおいても非常に効果的でした。失敗を恐れず、「まずはやってみる」というフットワークの軽さが生まれました。
- 自分自身を「ユーザー」として観察する視点: 普段仕事で顧客やユーザーを観察するように、自分自身の行動や感情を客観的に観察することで、「自分が何につまずきやすいか」「どんなやり方なら継続できそうか」といった自己理解が深まりました。
一方で、デザイン思考を個人的な課題に適用する上での限界や難しさも感じました。他者との共感が限定的であること、自分自身が観察者であり被験者でもあるため客観性を保つのが難しいことなどです。しかし、それでもこのフレームワークを通じて自身の課題に体系的に向き合えたことは、大きな収穫でした。
結論:個人的な課題解決にもデザイン思考を
情報収集・整理という日常的で個人的な課題に対し、デザイン思考のプロセスを適用した今回の試みは、私にとって非常に有益な経験となりました。単なるハウツーではなく、自分の内面を深く掘り下げ、多様な可能性を模索し、小さく実践して改善していくという一連の流れが、持続可能な変化を生み出す鍵となることを実感しました。
もし、あなたが仕事だけでなく、キャリア、人間関係、健康、趣味など、個人的な領域で何か解決したい悩みや達成したい目標を抱えているなら、デザイン思考のアプローチを試してみる価値は十分にあると思います。まずは、ご自身の現状を深く観察し、本質的な課題は何かを問い直すことから始めてみてはいかがでしょうか。完璧な答えを一度に見つけようとせず、小さく試して、そこから学びを得て、また改善するという iterative なプロセスを楽しむことが、より良い未来をデザインするための第一歩となるはずです。