デザイン思考を応用した、自身の目標達成計画立案と実行プロセスの記録
導入:目標設定はするけれど、実行が続かない悩み
私には以前から、目標を設定しても、なかなか計画通りに実行に移せず、達成に至らないという課題がありました。仕事においては、プロジェクト目標の達成に向けてチームで計画を立て、実行していく経験は豊富にあります。しかし、こと自身の個人的な目標、例えば「新しいスキルの習得」や「健康習慣の確立」となると、つい後回しになってしまったり、途中で挫折してしまったりすることが少なくありませんでした。
このような状況を打開したいと考えたとき、ふと頭に浮かんだのが、日頃仕事で活用しているデザイン思考のフレームワークでした。デザイン思考は、ユーザー中心のアプローチで課題解決や新しい価値創造を行う手法ですが、「自分自身」をユーザーと見立て、自身の目標達成という課題に適用できるのではないか、そう考えたことが、この探求と実践の始まりです。
課題の深掘り:なぜ、目標達成が難しいのか(共感・問題定義)
まず最初に取り組んだのは、なぜ目標達成が難しいのか、その根本原因を探ることでした。これはデザイン思考でいうところの「共感」と「問題定義」のフェーズに相当します。
自分自身をユーザーとして観察し、内省を深めました。目標設定時の高揚感はどこへ行くのか、どのような状況でモチベーションが低下するのか、何が行動を妨げているのか。過去に目標設定して失敗した経験をいくつか振り返り、その時の感情や行動を詳細に思い起こしました。
さらに、信頼できる友人数名に、私が過去に立てた目標とその達成状況について率直な意見を求めてみました。「目標が大きすぎて最初の一歩が分からない」「具体的にいつ何をするかの計画があいまい」「一人で抱え込んでいるように見える」といった、自分では気づきにくかった客観的な視点を得ることができました。
これらの内省と対話を通じて見えてきた課題は、主に以下の点でした。
- 目標設定自体があいまい: 例えば「英語を話せるようになる」という漠然とした目標で、具体的なレベル感や、それが達成できたと判断できる基準がない。
- 行動計画の解像度が低い: 目標達成のために必要な行動が細分化されておらず、「頑張る」といった精神論に終始している。
- 自己理解の不足: 自分がどのような時にモチベーションが上がり、どのような状況で継続が難しくなるのか、自身の特性を十分に理解していない。
- 外部環境への考慮不足: 仕事の繁忙期やプライベートのイベントなど、目標実行を妨げる可能性のある外部要因を考慮していない。
これらの分析を経て、解決すべき真の課題は「自身の特性や外部環境を踏まえ、達成基準が明確で、最初の一歩が踏み出しやすく、継続可能な、自分にとってフィットする目標達成プロセスを設計し、実行すること」であると定義しました。単に「目標を立てる」だけでなく、「自分自身というユーザーにとって、どのようにすれば目標達成が実現可能になるか」を考える必要があると気づいたのです。
解決策の模索:自分にフィットする方法を考える(アイデア創出)
課題定義に基づき、次に様々な解決策のアイデアを発想しました。これはデザイン思考の「アイデア創出」フェーズです。
自分にとっての目標達成プロセスを「設計」するために、既存の目標管理手法や習慣化に関する様々なアプローチを調べました。OKR(目標と主要な結果)、SMART原則、ガントチャート、ポモドーロテクニック、報酬システム、タスク管理ツール、コーチングなど、多様な手法や考え方があります。
これらの情報をインプットしつつ、「自分ならどうするか」「自分の課題解決に役立ちそうな要素は何か」という視点でブレインストーミングを行いました。仕事で使っているプロジェクト管理ツールの個人利用、読書会のように他者と目標進捗を共有する機会の創出、小さすぎるくらいの目標設定からのスタート、失敗した際のリカバリープランの事前検討など、様々なアイデアが生まれました。
これらのアイデアを、以下の基準で絞り込みました。
- 実現可能性: 自身の時間や能力、費用などのリソースで実行可能か。
- 課題への適合性: 定義した課題(あいまいさ、計画の粗さ、自己理解不足など)を解決するのに有効か。
- 自分へのフィット感: 自身の性格やライフスタイルに合っているか、無理なく続けられそうか。
例えば、複雑すぎる管理ツールは継続が難しいと考え、シンプルなものを選ぶ。他者との競争は苦手だが、他者との緩やかな共有はモチベーション維持になりそうだと判断する、といった具合です。
具体的な行動計画と試行:小さく始めて、検証と改善を繰り返す(プロトタイプ作成・テスト)
絞り込んだアイデアを基に、具体的な行動計画、つまり「プロトタイプ」を作成し、実際に試行を開始しました。これは「プロトタイプ作成」と「テスト」のフェーズです。
私が取り組んだ具体的な目標は「年間10冊、仕事に役立つ書籍を読み、簡単な要約と学びを記録する習慣を定着させる」というものに設定しました。以前より具体的な数値目標と行動(読む、記録する)が明確です。
この目標に対するプロトタイプとして、以下のような行動計画を立てました。
- ステップ1: まずは週に1冊、読みたい書籍リストを作成する(あいまいさの解消)
- ステップ2: 毎日、通勤電車の中で15分だけ本を読む時間を作る(行動の具体化、時間確保)
- ステップ3: 読み終えたら、簡単な感想と「最も学びになった点」をスマホのメモ帳に箇条書きで記録する(記録のハードルを下げる)
- ステップ4: 1ヶ月経ったら、計画通りに進んだか、難しかった点は何かを振り返る(検証と改善)
この計画を実行に移しました。最初のうちは、通勤電車で集中できなかったり、記録を忘れてしまったりと、計画通りにいかない日もありました。そのような「失敗」をただの挫折と捉えるのではなく、「テスト結果」として分析しました。なぜうまくいかなかったのか? 電車の騒音が気になるなら、代わりに静かなカフェで週末にまとめて読むのはどうか? メモ帳より、特定の読書記録アプリの方がモチベーションが上がるか? といった具合に、原因を探り、別の方法(別のプロトタイプ)を試しました。
例えば、毎日記録することが負担に感じたため、月に一度、まとめて振り返りながら記録を整理するという方法に変更してみました。また、読む本を選ぶのに迷う時間を減らすために、あらかじめリストを作成し、読む順番を決めておく、といった工夫も加えました。
このように、計画を実行し、その結果を観察し、うまくいかなかった点は改善策を考え、新しい方法を試す、というサイクルを繰り返しました。これはまさに、デザイン思考のイテレーション(反復)の考え方そのものです。
結果と学び:プロセスを通じて得られた気づき
このプロセスを数ヶ月続けた結果、当初の目標である「年間10冊の読書と記録」は、目標達成時期をやや遅延させつつも、ほぼ達成できる見込みとなりました。何よりも大きな成果は、読書と記録が以前より習慣として根付きつつあることを実感できた点です。
この実践を通じて得られた学びは多岐にわたります。
- 小さく始める重要性: 最初から完璧な計画を立てず、まずは抵抗なく始められる小さな一歩から試すことの有効性を体感しました。
- 「失敗」は「学び」: 計画通りにいかないことは失敗ではなく、改善のための貴重なデータであるというデザイン思考の考え方は、個人的な課題においても非常に有効でした。落ち込むのではなく、次に何を試すべきかを考える建設的な姿勢を保つことができました。
- 自己理解の深化: プロセスを通じて、自分がどのような外部刺激や内的要因で行動が促進・阻害されるのか、より深く理解できるようになりました。これは、今後の他の目標設定にも活かせる知見です。
- プロセスの可視化: 目標達成までのプロセスをデザイン思考のフレームワークに当てはめて考えることで、自身の思考や行動が整理され、次に何をすべきかが明確になりました。
デザイン思考を個人的な課題に適用することは、自身の状況を客観的に分析し、解決策を多角的に検討し、小さく試して改善を続けるという、非常に実践的で有効なアプローチであると実感しました。一方で、仕事のように強制力や外部からの明確な評価がない分、自分自身の強い意志と、プロセスを楽しむ姿勢が必要であることも感じました。
結論:あなた自身の「目標達成」をデザインする
個人的な目標達成にデザイン思考を応用する試みは、私にとって多くの学びと具体的な成果をもたらしてくれました。漠然とした悩みや目標に対し、共感、問題定義、アイデア創出、プロトタイプ作成、テストというステップを踏むことで、解決の糸口が見えやすくなり、行動へのハードルが下がります。
もしあなたが、私と同じように目標設定はするものの、なかなか実行に移せない、あるいは継続が難しいと感じているのであれば、ぜひ一度、あなた自身の「目標達成」をデザイン思考のフレームワークで考えてみてはいかがでしょうか。あなた自身をユーザーとして深く理解し、課題を明確に定義し、あなたにフィットする解決策を柔軟に試していくプロセスは、きっと新たな気づきと前進をもたらしてくれるはずです。完璧を目指す必要はありません。小さく始めて、試行錯誤の中から、あなたにとって最適な方法を見つけていくことが重要なのだと思います。