デザイン思考で読書習慣を改善し、定着させた私の記録
はじめに:なぜ読書習慣にデザイン思考を適用したのか
企画職として日々の業務に携わる中で、新しい知識や多様な視点を取り入れることの重要性を強く感じています。そのための最も基本的な手段の一つが「読書」であることは理解しているものの、日々の忙しさに追われ、なかなか読書習慣が定着しないという長年の課題を抱えていました。技術書やビジネス書、啓発書など、興味のある本は増える一方ですが、「積読」状態の本が増えるばかりで、消化しきれていない現状に漠然とした焦りを感じていました。
仕事ではデザイン思考のフレームワークを活用する機会がありますが、これを自身の個人的な悩みや目標解決に応用できないかと考えるようになりました。「マイデザイン思考ノート」というこのブログを始めたのも、そうした個人的な実践例を記録し、共有したいという思いからです。そこで今回は、この「読書習慣の改善と定着」という課題に対し、デザイン思考のアプローチを試みることにしました。単に「もっと本を読もう」と決意するのではなく、なぜ読めないのか、どうすれば読めるようになるのかを深く掘り下げ、具体的な行動をデザインし、試行錯誤を重ねるプロセスを記録することが、この取り組みの目的です。
課題の深掘り:読書習慣が定着しない真の理由を探る(共感・問題定義フェーズ)
デザイン思考の最初のステップは「共感」です。ここでは、自身の読書習慣が定着しない現状に対し、客観的かつ多角的な視点から深く理解することを目指しました。まず、自身の内省を行いました。「なぜ本を読む時間が取れないのだろうか」「本を読み始めたとしても、なぜ途中で挫折してしまうのだろうか」といった問いを立て、自分の行動パターンや感情を振り返りました。
内省の結果、以下のような要因が浮かび上がりました。
- 時間管理の問題: 忙しさを言い訳にし、読書時間を意図的に確保できていない。
- 集中力の問題: スマートフォンや他の誘惑が多く、読書に集中できない環境にある。
- 読む目的の不明確さ: 何のためにその本を読むのかという意識が薄く、モチベーションが持続しない。
- 完璧主義: 一冊を最初から最後まで完璧に読もうとしすぎ、負担に感じてしまう。
- アウトプットの欠如: 読んだ内容が身になっている実感がないため、次に繋がらない。
さらに、友人や同僚など、読書習慣が定着している数名に、どのように時間を作り、どのように読書を継続しているか、簡単なヒアリングを試みました。彼らの話から、「目的意識を持って本を選ぶ」「スキマ時間を活用する」「読んだ内容を誰かに話す/メモする」といった共通点が見えてきました。
これらの内省とヒアリングの結果を踏まえ、「問題定義」を行いました。単に「読書量が少ない」という表面的な問題ではなく、解決すべき本質的な課題は「読書を単なる消費で終わらせず、自身の成長や目的に繋がる活動として位置づけ、継続できる仕組みがないこと」にあると定義しました。この課題定義は、その後のアイデア発想の方向性を定める重要な羅針盤となりました。
解決策の模索:継続できる読書体験をデザインする(アイデア創出フェーズ)
定義した課題「継続できる仕組みがないこと」に対し、どのようにアプローチするかを考えるのが「アイデア創出」フェーズです。ここでは、質より量を重視し、できるだけ多様なアイデアを自由な発想で生み出すことを意識しました。自分一人で行うブレインストーミングのような形で、思いつく限りのアイデアをリストアップしました。
- 通勤時間を読書に充てる
- 朝起きてすぐの時間を読書に充てる
- 寝る前に必ず15分読む
- 読む場所を自宅以外(カフェや図書館など)に変える
- オーディオブックを活用する
- 特定のテーマを決めて集中的に読む期間を作る
- 読む本をあらかじめリストアップしておく
- 読書会に参加する
- 読んだ内容をSNSやブログに書く
- 読んだ内容を誰かに話す
- 本の重要な部分を要約する練習をする
- 「〇〇を読む」という目標を宣言する
- 完璧に読まず、飛ばし読みや斜め読みも許可する
- 面白くないと感じたら途中で読むのをやめる
これらのアイデアに対し、「実現可能性(自身のライフスタイルに合っているか)」「課題解決への効果(継続できる仕組みづくりに繋がりそうか)」「自身のモチベーション(やってみたいと思えるか)」といった観点から評価・絞り込みを行いました。例えば、「読書会に参加する」はアウトプットに繋がる可能性が高いものの、参加の手間やスケジュールの調整が負担に感じられ、継続性に課題がありそうだと判断しました。「通勤時間」は満員電車のため物理的に難しく、「オーディオブック」は試したことがあるがあまり集中できなかった経験がありました。
最終的に、実現可能性と効果のバランスが良いと判断した以下の3つのアイデアを組み合わせる形で、最初の「プロトタイプ」を構築することにしました。
- 時間と場所の固定: 毎日同じ時間(例: 朝)に、特定の場所(例: 自宅の特定の椅子)で読む。
- 目的意識を持った選書: 自身の興味や仕事のテーマに沿った本をリストアップし、その中から選ぶ。
- 簡易的なアウトプット: 読んだ内容を簡単なメモや要約として記録する。
具体的な行動計画と試行:小さく始めて検証する(プロトタイプ作成・テストフェーズ)
絞り込んだアイデアに基づき、具体的な行動計画、つまり「プロトタイプ」を作成し、実際に試してみました。最初のプロトタイプは、以下のような内容でした。
- 行動: 平日毎日、朝7時00分から7時20分までの20分間、自宅のリビングで本を読む。
- 選書: 事前に選んだビジネス・自己啓発分野のリストから一冊読む。
- アウトプット: 読んだ章やページで気になった点、気づきをノートに手書きでメモする。
このプロトタイプを1週間試してみました。最初の数日は新鮮さもあり順調に進みましたが、早起きが辛い日や、読む本がその日の気分に合わないと感じる日もありました。特に、手書きのメモは手間がかかり、内容を整理するのに時間がかかり、負担に感じられることが分かりました。完璧にメモを取ろうとするあまり、読書自体が進まなくなるという皮肉な結果も生まれました。
ここで、デザイン思考の「テスト」フェーズで得られたフィードバックに基づき、プロトタイプの改善を試みました。
- 時間の調整: 朝7時は少し早いと感じたため、7時15分開始に遅らせ、読書時間を15分に短縮しました。
- 場所の選択肢追加: リビングだけでなく、ベランダや近所のカフェなど、気分転換できる場所も選択肢に加えました。
- アウトプット方法の変更: 手書きメモから、スマートフォンのメモアプリやPCのドキュメントツールでのデジタルメモに変更しました。箇条書きや短いセンテンスで、気楽に書くようにしました。
- 選書の柔軟化: リストアップした本だけでなく、その日の直感で読みたいと思った本も読むことを許可しました。
この改善版プロトタイプで再び1週間試みました。時間の短縮と開始時刻の変更により、朝の負担が軽減されました。デジタルメモは手軽で、移動中や休憩時間にも追記できる利便性があり、継続しやすくなりました。選書の柔軟化は、読書を義務ではなく楽しい時間だと捉え直すきっかけになりました。この改善版プロトタイプは、初版よりも継続率が高く、読書時間に対する満足度も向上しました。完璧な習慣には至りませんでしたが、確かな手応えを感じました。
結果と学び:デザイン思考がもたらした変化
デザイン思考のプロセスを経て、私の読書習慣は少しずつ変化し始めています。完全に毎日同じ時間に読書ができているわけではありませんが、週に5〜6日程度のペースで、朝の15分間を読書に充てられるようになりました。以前のように「時間がない」と嘆くのではなく、「この15分を読書に使おう」と意識的に選択できるようになりました。
また、デジタルでの簡易メモ習慣が、読んだ内容の定着を助け、仕事やこのブログ記事のアイデアに繋がることも増えました。単に本を読むだけでなく、「何を学び取るか」「どう活かすか」という目的意識を持って読書に臨めるようになったことは、大きな変化です。
この個人的な課題解決へのデザイン思考の適用を通じて、いくつかの重要な学びを得ました。
- 課題の深掘りの重要性: 表面的な問題にとらわれず、「なぜそうなるのか」を深く掘り下げることで、真に解決すべき課題が見えてくること。自身の行動や感情、さらには他者の視点を取り入れることが有効でした。
- 小さなプロトタイプでの試行: 最初から完璧な計画を立てるのではなく、実現可能な小さな行動(プロトタイプ)を設定し、まず試してみることの価値。これにより、机上の空論で終わらず、現実的な課題や効果を把握できます。
- 継続的なテストと改善: 一度試して終わりではなく、結果を検証し、柔軟に改善を加えていくことの必要性。計画通りにいかないこと、予期せぬ気づきがあることを前提とする姿勢が大切です。
- 個人の課題への応用性: デザイン思考はビジネスだけでなく、自身のキャリア、習慣、人間関係など、個人的な多様な課題にも十分に有効であること。フレームワークを自身の状況に合わせて翻訳・適用することで、問題解決の糸口を見つけることができます。
一方で、個人的な課題への適用における限界も感じました。ビジネスのように明確な成果指標がない場合、どこまでを「成功」とするか、どの段階で次のステップに進むかといった判断は、自身の内的な納得感や目標設定に大きく依存します。また、他者との共感フェーズは、親しい関係者へのヒアリングに限定されるなど、ビジネスの顧客理解とは異なるアプローチが必要になります。
結論:個人的なデザイン思考実践の価値
今回の読書習慣改善の試みは、まだ道半ばではありますが、デザイン思考のプロセスを経ることで、漠然とした悩みが具体的な課題となり、試行錯誤を通じて解決の糸口を見つけることができました。単に根性論で習慣化を目指すのではなく、「なぜできないのか」を理解し、「どうすればできるか」を創意工夫するプロセスそのものが、自身の行動を客観的に見つめ直し、改善をデザインする良い機会となりました。
もしあなたが、キャリア、スキル、習慣、人間関係など、個人的な領域で何か悩みや目標を抱えているならば、デザイン思考のアプローチを試してみてはいかがでしょうか。完璧なプロセスでなくとも、共感、問題定義、アイデア、プロトタイプ、テストという考え方のフレームワークを取り入れることで、自身の課題に対する新しい視点や、解決に向けた具体的な一歩が見えてくるかもしれません。まずは、自身の「なぜ」を問い直し、小さくても良いので「こうしてみよう」というアイデアを形にし、試してみることから始めてみるのが良いでしょう。