マイデザイン思考ノート

デザイン思考で取り組んだ、快適な居住空間を実現する私の実践記録

Tags: デザイン思考, 片付け, 整理整頓, ライフスタイル, 実践記録, 個人的課題

個人的な課題にデザイン思考を適用する試み

日々の仕事で企画や課題解決にデザイン思考を取り入れる機会がある一方、私自身のプライベートな課題、特に長年抱えていた「部屋の片付けが苦手」という問題に対して、この考え方を応用できないかと考えるようになりました。物が溜まりやすく、一度散らかると元に戻すのが億劫になる。それは単なる物理的な問題だけでなく、私の心にも少なからず負担を与えていました。この個人的な悩みを解消し、より快適な居住空間を実現するために、デザイン思考のプロセスを適用してみることにしました。これは、仕事で培った思考法を私自身の生活に役立てるための実践記録です。

課題の本質を探る:共感と問題定義のフェーズ

デザイン思考の最初のステップは「共感」です。この文脈では、私自身の片付けられない状況や、それによって生じる感情、行動パターンを深く掘り下げることでした。なぜ片付けられないのか、片付いている状態とそうでない状態で何が違うのか、どんな時に物が溜まるのか。自己観察を通じて、「いつか使うかもしれない」という思考や、物を手放すことへの漠然とした抵抗感、一度に全てを片付けようとして挫折するパターンなどが明らかになりました。

また、この「共感」の対象を広げるために、片付けが得意な友人や家族に話を聞いてみました。彼らがどのような基準で物を手放すのか、どのように収納を工夫しているのか、片付けをどのように捉えているのか。そこから、「物を所有する意味合い」や「片付けに対する心理的なハードル」には個人差が大きいことを改めて認識しました。

これらの内省や対話を経て、「問題定義」のフェーズに入ります。私の片付けの課題は、単に「物が多い」ことだけではなく、「物に対する心理的なハードルが高く、手放す意思決定が遅れること」と、「継続的な片付け・整理の習慣や仕組みが確立されていないこと」にあると定義しました。つまり、表面的な物理的解決だけでなく、自身の内面や行動習慣にアプローチする必要があると考えたのです。

解決策の可能性を探る:アイデア創出のフェーズ

定義された課題「物に対する心理的なハードル」と「継続的な習慣・仕組みの欠如」に対して、様々な角度から解決策のアイデアを考えました。ブレインストーミングのように、最初は質より量を重視し、実現可能性にとらわれずにアイデアを書き出しました。

例えば、「物を捨てるのではなく、一時保管場所を設ける」「手放す基準を明確に言語化する」「片付けをゲームのように捉える」「特定の場所だけを毎日少しずつ片付ける」「気に入っている物に囲まれる状態を具体的にイメージする」「デジタルで管理できるものは全てスキャンする」「片付けの進捗を可視化する」などです。

これらのアイデアの中から、自身の性格やライフスタイルに合いそうで、かつ効果が期待できそうなものを絞り込んでいきました。「一度に完璧にやろうとしない」「手放す基準を明確にする」「片付けのハードルを下げるための小さなステップを設定する」といった方向性に収束していきました。特に、心理的な抵抗感を減らすための工夫と、行動を継続するための仕組み作りの両面からアイデアを選定しました。

小さな一歩を踏み出す:プロトタイプ作成とテストのフェーズ

絞り込んだアイデアを基に、具体的な行動計画、すなわちプロトタイプを作成しました。最初から完璧を目指すのではなく、小さく試せるプロトタイプを設計することを意識しました。

一つ目のプロトタイプは、「週に一度、30分だけ『迷子ボックス』と向き合う時間を作る」というものです。「迷子ボックス」とは、どこにしまうか判断に迷う物を一時的に入れておく箱です。30分という時間制限を設けることで、心理的な負担を軽減し、判断を先送りにせずに向き合う習慣を作ることを目指しました。

二つ目のプロトタイプは、「新しい物を一つ買ったら、似た役割の物を一つ手放すか、一年以上使っていない物を一つ選んで手放す」というシンプルなルールを設定し、これを一ヶ月試してみるというものです。物の流入量をコントロールし、ストックが増え続ける状況を防ぐ狙いがありました。

実際にこれらのプロトタイプを試してみました。「迷子ボックス」のプロトタイプは、30分という時間が集中を維持しやすく、一定の効果があると感じました。しかし、週末に時間が取れない週があったり、ボックスの中身が結局溜まってしまったりする課題も見つかりました。新しい物を買う際のルールは、意識しないとすぐに忘れてしまうことがありましたが、一度意識すると手放す行動が自然になる瞬間もありました。

これらのテストを通じて、計画通りにいかない部分や新たな課題が見つかりましたが、それ自体が貴重なデータとなりました。特に、「習慣化するためには、特定の曜日や時間に固定するより、特定の行動(例:帰宅後すぐ)と紐付ける方が自分には合っているかもしれない」「手放す基準は、物理的な状態だけでなく、自分の感情(例:見ると嫌な気分になる物)も考慮に入れた方が現実的だ」といった学びを得ました。

実践を通じた結果と学び

このデザイン思考のプロセスを通じて、私の居住空間が劇的に変化したわけではありません。しかし、以前に比べて、物に対する向き合い方や、片付けに対する考え方が大きく変わりました。

「共感」と「問題定義」のフェーズを経たことで、単に「片付けなきゃ」と思うだけでなく、「なぜ片付けられないのか」という根本原因に目を向けることができるようになりました。これにより、表面的なテクニックに飛びつくのではなく、自分に合った解決策を探る意識が芽生えました。

「プロトタイプ作成とテスト」のフェーズでは、完璧を目指さずに小さな一歩から始めることの重要性を実感しました。失敗してもそれは学びであり、次の改善に繋がるという考え方は、仕事におけるアジャイルな開発にも通じるものがあると感じました。また、試行錯誤を繰り返す中で、自分自身の行動パターンや心理的な癖について新たな気づきを得られました。

デザイン思考は、複雑な社会課題やビジネス課題だけでなく、このような個人的な、一見些細に見える悩みに対しても有効なフレームワークとなり得ると感じています。ただし、重要なのはフレームワークをなぞることではなく、自身の状況に合わせて柔軟に翻訳し、具体的な行動に落とし込み、そして継続的に試行錯誤していくことであると認識しました。

結論

自身の居住空間という個人的な課題にデザイン思考を適用したこの試みは、完全な解決には至っていませんが、確実に前進をもたらしました。問題の本質を見極め、多様な解決策を模索し、小さく試して学びを得るというプロセスは、仕事で培ったスキルを自己成長に繋げる有効な手段となります。

もしあなたが、仕事でデザイン思考に触れる機会があり、同時に個人的な悩みや達成したい目標を抱えているのであれば、ぜひ一度、その課題にデザイン思考のレンズを当ててみることをお勧めいたします。それは、新たな視点や解決策のヒントを与えてくれるかもしれません。完璧な結果を求めず、まずは共感と問題定義から、小さく試行錯誤を始めてみてはいかがでしょうか。