マイデザイン思考ノート

デザイン思考で過剰な不安を管理する私の実践記録

Tags: デザイン思考, 不安, 自己管理, 課題解決, 実践例

個人的な課題へのデザイン思考の適用:過剰な不安と向き合う

日々の生活や仕事において、漠然とした、あるいは特定の状況下での過剰な不安に悩まされることは、多くの方にとって身近な課題かもしれません。私もまた、些細なことに対しても先回りして悪い結果を想像したり、将来に対する不確実性に必要以上に心を乱されたりすることが少なくありませんでした。これは単なる性格の問題と片付けるには、精神的な負担が大きいと感じていました。

従来の対処法としては、自己啓発書を読んだり、一時的な気分転換を試みたりしていましたが、根本的な改善には繋がっている実感を得られずにいました。企画職として日頃から課題解決や新しいアイデア創出のためにデザイン思考のフレームワークを活用している経験から、このアプローチを自身の個人的な「過剰な不安」という課題に応用してみることにしました。ビジネスにおける複雑な問題を紐解くように、自身の内面にあるこの課題の本質を探り、具体的な解決策を見つけ出す試みです。

課題の深掘り:自身の「不安」をデザイン思考的に理解する

デザイン思考の最初のフェーズである「共感」と「問題定義」は、この個人的な課題に取り組む上で非常に重要なステップとなりました。通常、デザイン思考ではユーザーの立場に立って深く理解することを目指しますが、ここではその対象を「自分自身」としました。

まず、自身の不安がどのような状況で、どのようなトリガーによって引き起こされるのかを深く内省することから始めました。日記をつけるように、不安を感じた日時、その時の状況、思考、感情、身体的な反応を具体的に記録する「感情ジャーナル」のようなものを試みました。これにより、「人前での発表の前日」や「予期せぬ変更が発生した際」など、特定のパターンが見えてきました。また、不安の根底にある感情は「失敗への恐れ」や「コントロールできないことへの抵抗感」である可能性が高いことにも気づきました。

次に、デザイン思考における「共感」の対象を、自分だけでなく、信頼できる家族や友人にも広げてみました。彼らに「私がどのような時に不安を感じているように見えるか」「私の不安についてどう思うか」といった問いかけを行いました。自分一人では気づけなかった客観的な視点や、彼ら自身の不安との向き合い方に関する経験を聞くことは、共感フェーズを深める上で有益でした。

これらの内省と対話を通じて、私の「過剰な不安」の真の課題は、漠然としたものではなく、「予期せぬ状況や失敗の可能性に直面した際に、自身の無力感を強く感じ、それによって行動が制限されること」にあると再定義することができました。単に不安を「感じなくする」のではなく、「不安を感じたとしても、それにとらわれず適切に対処し、行動を継続できるようにする」という方向性が見えてきました。

解決策の模索:アイデア発想と絞り込みのプロセス

再定義された課題、「予期せぬ状況や失敗の可能性に直面した際に、自身の無力感を強く感じ、それによって行動が制限される」に対し、解決策となるようなアイデアを幅広く発想する「アイデア創出」フェーズに進みました。

発想にあたっては、ブレインストーミングのように、自分自身で思いつく限りの対処法を書き出しました。「ポジティブな考え方をする」「深呼吸をする」「運動する」「誰かに話す」「事前に準備を徹底する」「最悪のケースを想定する」「何も考えないようにする」「逃げる」など、現実的なものから非現実的なものまで、質より量を重視してリストアップしました。

さらに、他者の経験や専門家の知見もアイデアの源としました。不安に関する書籍や心理学の情報を調べ、認知行動療法で用いられる技法や、マインドフルネス、ジャーナリングといった具体的なプラクティスを知りました。これらを「自分ならどのように実践できるか」という視点でアイデアリストに加えました。

これらの多岐にわたるアイデアの中から、自身の状況や性格、そして再定義した課題解決の方向性に合致するものを絞り込みました。全てのアイデアを試すことは現実的ではないため、特に有効性が高そうだと感じたもの、そして自身の生活に無理なく取り入れられそうなものに焦点を当てました。具体的には、「不安を感じた思考を客観的に観察する(認知の歪みに気づく)」「具体的な行動計画を立てることで不確実性を減らす」「身体的なアプローチ(呼吸法や軽い運動)を取り入れる」「信頼できる人に相談する時間を持つ」といったアイデアが候補として残りました。

具体的な行動計画と試行:プロトタイプとテストの実践

絞り込んだアイデアを、具体的な「プロトタイプ」(実験的な行動計画)として実行し、その結果を検証する「プロトタイプ作成」と「テスト」のフェーズです。これらのフェーズは、デザイン思考における反復の核となります。

まず、いくつかのプロトタイプを並行して、あるいは順番に試す計画を立てました。 * プロトタイプ1:不安思考の「可視化」と「客観視」 * 計画:不安を感じた際、頭の中で考えていることを紙に書き出す。書き出した内容を後で見返し、「これは事実か、単なる感情か」「別の可能性はないか」と問いかける時間を設ける。 * 試行:最初は書き出すこと自体に抵抗や面倒くささを感じましたが、数日続けるうちに、自分の思考パターンに一定の偏りがあることに気づきました。「どうせうまくいかないだろう」といった決めつけや、「こうであるべきだ」という rigid な思考があることを見出しました。 * 結果:書き出すことで思考が整理され、感情が少し落ち着く効果はありましたが、それだけで不安が解消されるわけではありませんでした。客観視する問いかけも、すぐにできるようになるわけではなく、練習が必要だと感じました。 * プロトタイプ2:具体的な「行動計画」による不確実性の低減 * 計画:特に不安を感じやすい、タスクやイベント(例:新しいプロジェクトの開始、重要な会議)に対し、具体的なステップに分解し、最初の1〜2歩だけでも行動計画を作成する。 * 試行:大きな課題に直面した際に「何から始めれば良いか分からない」という状態が不安を増幅させていたことに気づきました。小さくても具体的な最初のステップを決めることで、課題全体への見通しが立ちやすくなり、不安が軽減されました。 * 結果:このアプローチは比較的効果的でした。計画通りに進まない場合でも、計画を修正すれば良いという考え方ができるようになったのは大きな進歩です。 * プロトタイプ3:身体的なアプローチ(呼吸法とストレッチ) * 計画:不安や緊張を感じた際に、その場から離れて深呼吸を5回行い、簡単なストレッチを行う。 * 試行:これは即効性があり、特に身体的な緊張を伴う不安には有効でした。思考から注意をそらし、身体感覚に集中することで、パニックになりそうな気持ちを鎮めるのに役立ちました。 * 結果:定期的に実践することで、不安のピークを和らげる「緊急時対応策」として有効であることが分かりました。ただし、根本的な不安の原因を解決するものではありません。

これらのプロトタイプは、一度試して終わりではなく、結果を評価し、改善を加えながら複数回テストを繰り返しました。プロトタイプ1の「客観視」は、すぐに効果が出なくても粘り強く続ける価値があると感じました。プロトタイプ2は、計画の粒度や頻度を調整しながら、様々な状況で応用を試みました。プロトタイプ3は、特定の場面での有効性を確認し、習慣として定着させることを目指しました。

うまくいかなかったプロトタイプもありました。例えば、「無理にポジティブに考える」というアイデアは、かえってネガティブな感情を抑圧することになり、効果を感じませんでした。このように、全てのアイデアが自分に合うわけではないこと、そして試行錯誤を通じて最適な方法を見つけることが重要であることを学びました。

結果と学び:デザイン思考実践を通じて得られたこと

一連のデザイン思考プロセスを通じて、過剰な不安という課題に対する私の向き合い方は大きく変化しました。完全に不安がなくなったわけではありませんが、不安を感じたとしても、それが自身の思考パターンや特定の状況によって引き起こされていることを理解し、具体的な対処法を選択できるようになりました。不安に支配されて行動が制限される状況は減少し、感情に振り回されにくくなったと実感しています。

デザイン思考を個人的な課題に適用することの有効性は、以下の点にあると感じています。

一方で、デザイン思考が万能ではないこと、特に心理的な課題においては専門家の支援が必要な場合があるという限界も認識しています。デザイン思考はあくまで自己理解と行動変容を促すフレームワークであり、深刻な不安障害などについては、医療機関や専門カウンセラーへの相談が不可欠です。私の場合は、デザイン思考のアプローチが、自己管理のツールとして有効に機能しました。

結論:デザイン思考は自身の変化をデザインするツール

過剰な不安という個人的な課題に対し、デザイン思考のプロセスを適用したこの試みは、私にとって非常に有益な経験となりました。自身の感情や思考を客観的に捉え、課題の本質を定義し、多様な解決策を試し、結果から学びを得るという一連の流れは、ビジネスシーンにおける課題解決プロセスと何ら変わりありませんでした。

デザイン思考は、外部の顧客やユーザーだけでなく、自分自身の「ユーザー」として深く理解し、自身の内面に存在する課題や目標を「デザインする」ための強力なツールとなり得ます。もし、あなたが個人的な悩みや達成したい目標を持ちながらも、何から手をつけて良いか分からない、あるいはこれまでの方法でうまくいかなかったと感じているのであれば、デザイン思考のフレームワークを自身の課題に応用してみることを検討されてはいかがでしょうか。まずは、自身の悩みや目標について深く内省することから始めてみてください。それは、自身の変化をデザインする最初の一歩となるでしょう。